年上の部下、あるいは、年下の上司、という言葉からはどんな印象を持ちますか?
お互い、相手に対してこんな悩みを抱えているようです。
頑固で言うことを聞いてくれない
モチベーション低いし仕事もできない
気を遣って言いたいことも言えない
プライドが邪魔して素直に従えない
上司の知識や経験が浅すぎて尊敬できない
能力は高いが態度が横柄で気に入らない
これはなかなか難しい人間関係ですね。
頭では、会社内での上下関係をわかっていても、心がなかなかついていかない事ってあるのではないでしょうか。
この記事をご覧になっているあなたも、苦労した経験や現在進行形の悩みがあるかもしれません。
私が長を務めているチームは、異動による増減はありますが、約20名のメンバーが在席しています。
年齢構成で言えば、50代が半分、40代(←私)が2割、30代が3割です。20代はいません。つまり半分の部下が、私よりも年上なんですよね。
私の職場は、かなり高齢化が進んでいるように見えますが、理由は簡単です。
仕事の内容が、若手社員には荷が重いからです。
詳しくはお話できませんが、ある程度の知識と経験、それと他部門に対するリーダーシップが求められる仕事をしているので、必然的にベテラン社員が多くなってきます。
かなりハードな仕事なので、ただでさえストレスが大きい上、年配のベテラン社員が頑張ってくれないと成果が出せない状況となっているのです。
私の職場に、もう残り数年で定年となるSさんという男性社員がいます。技術畑出身で、豊富な知識と経験を持った大ベテランです。
ところがこのSさん、声が大きく気性が荒いことで社内でも有名なんですが、そのキャラが災いして、あちこちの職場で煙たがられ、転々と異動させられています。
そして会社人生最後の職場として、私のところにやって来ました。
この記事を書いているほんの数日前にも、ちょっとしたトラブルが発生しました。
毎日、人を怒鳴りつけているSさんですが笑、この日だけはちょっとキレ方が尋常ではありませんでした。
Sさんは自席に座っていたのですが、横に立っている他部門の30代くらいの男性社員を大声でこっぴどく怒鳴りつけていました。
「帰れ!お前と話すことなんかない!いいからあっち行け!!」
フロアに響き渡る大声で騒いでいたのです。
その時、私は少し離れたところで別の打ち合わせをしていたのですが、チラっと見るとSさんの直属上司の課長(この課長が私の直属部下にあたります)が近くにいたので、とりあえず彼に目配せだけして放っておきました。
まあうちの職場ではよくある光景なんでみんな慣れています。
いつもより声がでかいな・・・まあ俺が行かなくても大丈夫か
その時、フロアの果てから他部門の部長がつかつかとやってきて、Sさんを叱責したのです。
この部長は、私より年上ですが、怒鳴っているSさんよりさんは年下です。
何を大声で怒鳴ってんだ!何考えてんだ!彼に謝れ!
ここで私の怒りスイッチが入りました。この部長に対してです。
さすがにSさんの上司である課長もうろたえ始めた様子だったので、静観していた私も腰を上げました。
○○部長、この場は私がなんとかしますので席に戻ってください それと君(怒鳴られてた30代社員)、後で話聞いてあげるからとりあえず帰りな
そう言って、ニヤリとSさんに目配せしました。そして、うろたえる課長にはジロっと厳しい視線。
顔を真っ赤にしてたSさんですが、スッと元の表情に戻り、バツの悪そうな顔でうつむいて頭をかいてました。
今回の件、どういう話の経緯なのかは私はその時知らなかったのですが、これまでの経験上、99%はSさんの言ってることは筋が通っていて正しいのです。
今回の件も、後で事情聴衆したら、やはりそうでした。
つまり筋が通ってなくて、間違った仕事をしていたのは怒鳴られていた社員。
Sさんの問題は、言い方がひどすぎる、という点のみ。
今回の件、唯一の失態は、直属上司が腰を上げるタイミングが遅かったことです。
彼は対処法を理解しているので任せておいたのですが、部長さんに先を越されてしまいました。課長本人もそれを悔やんで私に謝ってきました。
今回の件(うちの職場ではいつもの事ですが)、私の考える正しい対処方は以下です。
以上です。
え?怒鳴ったことは注意しないの?
年下の部下であれば、立ち振る舞いや態度も厳しく注意しますが、年上の部下に対してはそこは注意しません。
それよりも何よりも、怒鳴られた相手の精神的ケアが最優先です。
後ほど、具体的な私の働き方を紹介しますが、その前に日本特有の企業文化について少しだけお話をさせてください。
私はいろんな国の人間が働いているアメリカ企業にいた経験もあるのですが、そこでは年齢はまったくといいほど誰も意識していませんでした。
みんなファーストネームで呼び合って、年下上司が年上部下を叱責する光景もよくあることでした。
だからと言って、欧米人が年長者を敬っていないという訳ではありません。
日常生活においては、日本人よりもよほど年長者を大切にしていると感じることさえもあります。
あくまで私の感じたことですが、そのアメリカ企業では、年齢に関係なく組織の中でそれぞれの役割をきっちり果たすことがより重要だ、と考えている人が多いように見受けられました。
仕事は仕事、会社は会社、とお互い割り切ってます。
仕事で成果を出すためには年齢は関係ない。
ドライですが余計なことを気にせずに仕事に注力できますね。
でも、これを能力主義とか実力主義と呼んで、日本企業に安易に持ち込むことには違和感を感じています。
日本企業は人間関係がもう少しウェットです。入社年次が大きな意味を持ち、先輩後輩といった上下関係や、同期入社の連帯感などが普通に存在しています。(特に昭和の大企業や役所なんかはそうかも)
欧米みたいに、能力主義だ!と言い切って、それを日本の企業で実行するのもいいでしょう。正論と言えば正論です。
でも頭で理解できても心がついていかないことってあるのです。それが人間。
欧米人も人間ですから、年下上司に腹を立てることもあるでしょう。でも神の元に皆平等であるキリスト教で育った欧米人は、儒教の教えで育てられた日本人ほどは気にしないのかもしれません。
ウェットな日本、ドライな欧米、どちらが正解というわけではありませんが、お互い育ってきた環境が違いますので、仕組みだけ真似てもうまくいかないものなのでしょう。
まず年上部下と付き合う場合に一番大切なこと。
ひとりの人間であるという部分と、会社員であるという部分を明確に切り分けて対応することです。
つまり、ウェットであるべき部分(人間)とドライであるべき部分(仕事)をしっかり分けて、年上部下とは接するべきだと私は考えています。日本の企業文化においては、ウェットとドライが混在しているからです。
先ほどのSさんがブチ切れした件ですが、注意した年下部長はその切り分けをせずに、頭ごなしにSさんを怒鳴りつけた訳です。
事情も知らないのに、ただ大声を出しているだけで、ウェット(人間)もドライ(仕事)も両方否定しました。Sさんにしたらダブルパンチを食らったようなものです。
それで凹む人ならまだしも、Sさんは武闘派です。放っておいたら手の付けようのない大ゲンカになったことでしょう。
そうなると不利になるのは職位が低い方のSさんです。これはサラリーマン的に損なことです。
大事な部下であるSさんがそんな事になるのは私には容認できません。
だからこの部長に対して私の怒りスイッチが入ったのです。
そもそもこの部長、私に言わせると、能力の低さを肩書でカバーしようとする自己顕示欲が強いタイプ。
案の定、後で「俺が場を収めてやった」とあちこちに言いふらしていました。
遅かれ早かれ、今度は私と大ゲンカになりそうです。
今回の件はドライ(仕事)の方ではSさんに非はありませんでした。でも、ウェット(人間)の方では問題ありです。
常識的に考えて、あのような暴言は会社の中でするもんじゃありません。完全にハラスメントです。
でも私はそこを注意しませんでした。なぜか?
言っても無駄だからです。ただそれだけ。
なんて無責任な上司だ!って思いましたか?はい、そうかもしれませんね 否定はしません
あくまでこれは私の考え方であり、万人におススメする訳ではありませんので。
40代の私より上の世代となると、50代。定年間近の方もいます。
そのような先輩に対して、ウェット(人間)の部分を説教して、今さらどうにかなるでしょうか?
頭では理解してもらえると思いますが、心で理解し、行動を変えてもらうことなどほぼ不可能だと思います。
怒鳴った当の本人は子供ではありませんから、悪いことをしてしまった事は十分理解しているのです。
本人がわかり切っている事を、上から目線でまた頭で理解させようとしても、感情を逆なでするだけです。
だから私は注意をしません。
むしろ注意をしない事によって、Sさん自身の心で反省することを促しているのです。
大人なので放っておけば自分で勝手に反省します。反省してもまた繰り返すでしょう。
それが ”老いる” ということだと、私は割り切ってます。人間なんだから仕方ない。
もっと私が恐れていることは、Sさんが大人しくなってしまい、言うべきことも言わくなってしまうことです。
うるさいけど、言うべきことをしっかり言う部下
大人しいけど、言うべきことも言わない部下
上司としてコントロールがしやすく、仕事の成果が出せるのはどちらのタイプでしょうか?
うるさいけど、言うべきことをしっかり言う部下
完璧な部下なんていません。だからこそ、上司は、長所は活かし、短所はコントロールするしかないのです。
それよりも、心配なのは怒鳴られた相手側。こっちのケアが大切です。
まだ30代であんな怒鳴られ方したらかなりメンタルをやられたかもしれません。
そこは私も全力で謝罪し、ケアします。
それから正しい仕事のやり方を、口下手なSさんに変わって私が教えてあげるのです。
年上部下と接する際、私はウェット(人間)の部分は理屈抜きにリスペクトします。年上である、大人である、というところを信じます。
あまり細かいことは言わずに、信頼して、自分流で仕事をしてもらいます。
たとえそれがすぐに人を怒鳴りつける流儀であってもです。
その上で、ドライ(仕事)の部分で間違っていた場合は、ちゃんと指摘やアドバイスをします。
仕事の目的や背景について、丁寧に丁寧に説明します。
経験豊富な大人ですから、それを理解さえすればすばらしい成果をあげてくれるはずです。
それでも成果があげられない場合、そこが管理職の腕の見せ所なのです。
組織としての成果を維持するために自ら動くのが管理職の仕事です。自分でやってもいいし、できる人間に仕事を振ってもいいのです。
年上部下には、人間性を無視して、できない事を頭で理解させてやらせようとするのではなく、人間性を尊重した上でできる事を自覚してもらう。
それが私の年上部下に対する接し方です。
例外はありますが、40代50代で平社員というのは、出世街道から外れた人が多いと思います。
今さら頑張ったところで、これ以上の出世はないな
そう感じているでしょう。残念ながらその通りかもしれません。
ただ、出世街道から外れたのにはそれなりに理由があるはずです。みなさん大人だから、その理由には気づいているはずであり、その事実を受け入れて日々働いているのでしょう。
モチベーションの維持が難しいところだと思います。
出世の道が閉ざされていることは、自分で受け入れれば済むことですが、管理職としても厄介な問題がひとつあります。
それは業績評定(業績査定)です。
私の会社では、一般社員(平社員)にはランクがあります。階級のようなものです。
例えば、新卒入社したらランク1からスタートし、勤続年数と業績評価によって、昇格試験を受ける権利が与えられ、試験に合格したらランク2、ランク3と昇格していきます。
一般社員の最高ランクがランク3だとすれば、ランク3の次は管理職試験を受けて、合格すれば管理職のランク1になる訳です。
評定は同ランクの中で、A(すごく良い)、B(良い)、C(普通)で割り振られます。そして、評定には配分比率が決まっていて、みんなが優秀だからといって、全員Aという訳にはいきません。
A:B:Cの比率が、10%:40%:50%の場合、10人のランク3社員のうち、1人しかAがもらえない仕組みです。
私の会社の場合、一般社員の場合は、よほどの事が無い限り年功序列でランク3までは上がります。よほどの事というのは、懲戒処分とか長期欠勤した場合です。
つまり、幹部候補から外れた年配社員は、ほとんどがランク3にいます。また、ストレートで幹部を目指す優秀な若者も同じランク3にやってきます。ランク3は常に混戦状態なのです。
私は彼らの評定をする立場にありますが、正直言って幹部候補から外れた年配社員(年上部下)には良い評定を出すのが難しいのが実情です。
幹部候補を育てることも管理職の役割であるため、重要な仕事や成果の大きな仕事はどうしても優秀な若手にさせることになり、結果、そういう若手が限られたA評定を持っていきます。
そもそも幹部候補から外れた年配社員は、モチベーションもさほど高くないので、厄介な仕事は敬遠しがちです。敬遠せずとも、仕事の難易度が高いため、そこそこ頑張った程度ではさすがに成果が出せません。それが幹部候補から外れた理由のひとつでもあるのです。
結果として、年上部下に与えられる評定は、良くてB評定、基本的にはC評定となってしまいます。
これ以上の出世は見込めない、良い評定ももらえない。
モチベーションも上がる訳がありませんね。
でも私の職場の半分はこういう年配社員なのです。年上部下なのです。
頑張ればもっと上を目指せますよ!給料も上がりますよ!
そんなウソはつけません。
だから年配社員のモチベーションについては触れようとしない管理職がほとんどです。
簡単な仕事や楽な仕事を与えて、ただただ優しく笑顔で接して、定年して去っていくのを待つ。
でも私はそれが許せないのです。自分を育ててくれた大切な先輩に対して、そんな仕打ちってあるのでしょうか。
実際に私がとった行動をお話します。
私は職場メンバーを2つに分け、それぞれのグループを会議室に呼びました。ひとつのグループは、年配者(年上部下)のグループ。もうひとつはそれ以外の若手(年下部下)メンバーです。
ジャニーズのV6で例えれば、トニセンとカミセンです。
まず若手メンバーに対して、私は以下のことを伝えました。
● 職場を年配メンバーと若手メンバーに分けて、今回それぞれに招集をかけた
● この部屋にいる若手のメンバーは将来の幹部候補である
● 若手には年配者と違う仕事を2つ与える
● ひとつは人材育成、もうひとつは職場全体に貢献するタスク
● 人材育成については、自部門や他部門の後輩育成、取引企業の担当者育成などの成果を業績評定で考慮する
● 職場全体に貢献するタスクとして、私がやっている仕事、例えば予算管理や業績報告まとめ等を各自に割り振る
● これらの仕事は年配者にはやらせない、若手だけの特別業務である
● 仕事が多い分、業績評定では当然有利となる
● 君たちから見ると、年配者はあまり仕事をしていないように見えるだろうし、実際その通りだ
● でも年配者を見下すことなく、先輩たちの背中を見て、見習うべき点をしっかり見習え
● 年配者の見習うべきポイントを発見して、自分のものにできたとき、君たちは出世街道に乗ることができると思え
次に年配者(年上部下)を呼びました。
● 私はみなさんの上司という立場にあるが、これはあくまでひとつの役割であると、日々肝に銘じている
● 仕事とか会社とか関係なく、ひとりの人間として、先輩方を尊敬している
● 先輩には、私を含めた後輩たちを日々指導し、助けてもらいたいと考えている
● 仕事については、めんどくさいことを頼むつもりはなく、みなさんのやり方で自由にやってもらえればいい
● 若手には、人材育成と職場全体に貢献するタスクを与えたが、先輩方にはそれはお願いしない
● その代わり、若手の方が評定では有利となる
● もし不服があるのであれば、若手と同じように特別な仕事をお願いするので、申し出てほしい
● みなさんに部下の育成はお願いしないが、先ほど若手メンバーには、先輩の背中を見て学べと指示した
● つまり、みなさんが教えようが教えまいが、若手はみなさんの仕事ぶりを、みなさんの背中を日々見習います
● みなさんはもう管理職になるのは難しいが、この会社にみなさんの功績を残すことはできる
● 定年までの残された時間で、先輩方のやってきたこと、考えてきたことを、我々後輩のために残してほしい
● 目の前の仕事だけやってもらえたらいい、でも背中はしっかり見させて頂きますので、それを忘れないでほしい
とうとう私は、パンドラの箱を開けてしまいました。
この後、私の職場がどう変わっていったか?
おかげさまで高い業績を上げることができています。にぎやかで、笑いあり、怒号あり・・・団結力は他の職場に負けていません。
でも・・・この私の行動が正しかったのかどうかは、今でもわかりません。
年配社員が心の底でどう思っているのかは、私には知りようがないのです。
これまでの会社人生で、大きな成果も出すことができず、今では出世もない、よい評定ももらえない。
そんな年上部下ですが、長年勤務してきたプライドはあります。
年下の後輩たちに伝えたいこと、教えたいこともあります。わずかばかりの会社への忠誠心もあるはず。
私より先に会社を去る、そんな先輩方に私が望むことはただひとつ。
それだけなんです。