「産業革命」という言葉、きっとみなさんもご存知だと思います。中学生の頃(小学生?)に社会科の授業で習った言葉ですね。
昔、イギリスで蒸気機関が発明されて工業が発展したって話ですね!
その通りです!でも今回の記事は、歴史の話ではありません。
今、私たちの身の回りで起こりつつある現代の産業革命「インダストリー4.0(第4次産業革命)」について、現役ビジネスマンで、ものづくりの仕事に関わっている私から少しお話してみようと思います。
直訳したら、第4次産業革命という意味です。
今、まさに起ころうとしている現代の産業革命です。
4次というからには、1次、2次、3次があります。
図解すればこんなイメージです。
第1次産業革命(インダストリー1.0)は、みなさんが学校で習ったイギリスにおける産業革命のことです。
蒸気機関の発明により機械が生まれ、1800年前後のイギリスにおいて、その機械によって工場でモノを大量生産するようになりました。いわゆる”工業化””が進んだわけです。また、蒸気船や鉄道も生まれ交通手段も大きく進歩しました。
水力や蒸気を使った機械化の始まりです。
これまでは石炭(蒸気機関)で機械を動かしていましたが、1850年頃から1900年頃にかけて石油と電気で機械を動かすようになりました。
それが第2次産業革命(インダストリー2.0)です。
エジソンが電話や電球を発明したものこの頃です。エンジンを搭載した自動車の生産も始まりました。ラジオや映画も生まれ、食料や衣類の生産はさらに機械化が進み、化学技術も大きく進歩しました。
電力を使った大量生産の始まりです。
この言葉の定義は諸説あるのですが、一般的には2000年前後以降の「IT時代の到来」を意味します。IT革命とかデジタル革命と呼ばれている時代です。
マイクロソフトのWindows、GAFA(Google/Apple/Facebook/Amazon)の台頭です。
コンピューターによる自動化の始まりです。
インダストリー4.0は、2011年からドイツ政府が進めている産官学共同の国家プロジェクトのことなんです。
フーン、なんだ外国の話か・・・日本と関係あるの?
大ありです
日本の製造業も大きく変わるかもしれません
ではインダストリー4.0の概要を簡単に紹介します。
<第一段階>
製造業のデジタル化(IT化)によって、工場と製品をネットワークで繋ぎ、多品種少量で高付加価値な製品を効率的に生産できるスマートファクトリー(自ら考える工場)を実現。
<第二段階> ☜ここが重要!というかここが本当の狙い!
工場や製品からもたらされるビッグデータを活用し、製品だけではなくサービスも提供する新しいビジネスモデルを生み出すこと
一言で言えば、IoT(アイ・オー・ティ:Internet of Things)のことです。
IoTとは、様々なモノ(家電、自動車、住宅など)がネットでつながって互いに情報交換することにより、生活が便利になったり、新しいビジネスやサービスを生み出すことです。
もう少し詳しく解説していきます。
スマートファクトリーとは、工場の中の生産設備や生産管理システム、物流システムなんかを、すべてネットで繋いで情報を共有し、まるで工場が生き物のように自分で考え、モノをつくる工場のことです。
これだけじゃまだ少しわかりづらいですね。もう少し具体的な説明をします。
パソコンのカスタムオーダーがよい事例です。
パソコンのネット通販では、DellやLenovoといったメーカーが直販サイトを運営しています。この直販サイトでは、ユーザーの好みに応じて、スペックや付属品をきめ細かく選びオーダーすることができます。
このカスタムオーダーは、ITによって実現できた新しいビジネスモデルですが、ネットでつながっているのは購入客とメーカーだけです。
インダストリー4.0の世界においては、さらにこれが進化します。
生産工場ともネットでつながり、パソコンを組み立てるロボット、パソコンに必要な部品や資材を作っている会社や工場、さらには、パソコンを購入したお客様の使用状況、パソコン下取り会社の中古パソコン在庫情報などなど、パソコンに関するあらゆる情報が共有されるのです。
この情報共有によって、生産から消費という経済活動をつなぎます。
つながることによって、より人々のニーズにきめ細かく対応した製品を作ることができます。さらに、その製品を作るのに必要な原料や資材を無駄なく効率的に使うことができるのです。
そして、新しいビジネスやサービスが生まれるのです。
「地球から掘り出されて、地球に帰るまで、すべての生産・消費活動を把握する」と言ってもよいかもしれません。
ここで共有された情報が、ビッグデータと呼ばれています。確かに巨大な情報です。
一般的に、家電や自動車のような工業製品は、大量生産することによってコストを下げて、ユーザーになるべく低価格で提供されます。その代わり、ある程度決まったものの中から選んで購入しなければなりません。
でも、ビッグデータによって作る側と買う側がつながれば、自動化や生産合理化が更に進み、より低価格なカスタマイズ製品が、より早く手に入るようになります。
ただし、ここまではあくまで第一段階です。
ユーザーに喜ばれるすばらしい製品を安く効率的に作ることは、すばらしいことではありますが、インダストリー4.0においては、それは手段であって目的ではありません。
インダストリー4.0には、この続き「第二段階」があり、むしろそちらが目的なのですが、ここを勘違いしている企業やビジネスマンが意外に多いのです。
それはビジネスモデルのイノベーションです。
今の産業界においては、製品のイノベーションだけで競争をしていては、ビジネスの継続が困難になり、ひいては国力を低下させかねません。
SDGsやカーボンニュートラルのような国際的な社会目標に向けて世界は動き出しています。
競争だけではなく、協調や共有もすることによって、ビジネスを継続させていく世の中に変わりつつあるのです。
そのために、デジタル革新(デジタルプラットフォーム)によってあらゆる情報をつなぐ。世界をつなぐ。
これまでつながっていないところが、つながるようになれば、そこに新しいビジネスやサービスが生まれるのです。これまで売れなかったものが世界中に売れるようになるのです。
それこそが、インダストリー4.0の真の目的なのです。
ここでソサエティ(Society)5.0とインダストリー4.0の違いを説明します。
似ているので混同されやすい言葉です。
ソサエティ(Society)5.0は、日本が提唱する未来社会の姿です。
に続く、デジタル化とイノベーションによって実現される新しい社会がソサエティ(Society)5.0なのです。
一方インダストリー4.0は、ドイツ政府が国家プロジェクトとして取り組んでいる、デジタル化とイノベーションによって実現を目指す「新たな産業」を意味しています。
実は日本にもインダストリー4.0と同じ考え方があります。「コネクテッドインダストリー」という考え方ですが、発表されたのは2017年。ドイツから6年遅れです。
日本政府は、ソサエティ(Society)5.0を実現するための産業の在り方や取り組みを、「コネクテッドインダストリー」と表現しています。
まとめますと、
と言えます。
似たような言葉がたくさんあってわかりづらいですが、結局、世界は同じ方向に向けて突き進んでいるのです。
SDGsの国際目標達成に向けて、大きく世の中が動いています。
日本でも小泉環境相がSDGs担当大臣を名乗るほどです。
2019年9月11日に発足した第四次再改造内閣で、小泉進次郎さんが初入閣し、環境大臣及び原子力防災担当大臣に就任されました。 38歳、戦後3番目に若い閣僚の誕生です。「環境省=社会変革担当省と、そういった思い、また私、今SDGsのバッジをつけていますが、環境省こそがSDGs省と、私はSDGs大臣と、そういったふうに進んでいくように取り組みを進めていきたいと思っています。」
日本政府としても、ソサエティ(Society)5.0の実現は、SDGsの取り組みにおいて日本が世界のリーダーとなるために、きわめて重要な考え方となっており、官民一体となって「Society5.0 for SDGs」というコンセプトを提案しています。
これは未来に向けたすばらしい取り組みではありますが、日本の産業界、とりわけ自動車業界においては、「100年に1度の大変革期」とも呼ばれていて、生き残りをかけた大きな挑戦になっています。
日本が推進しているコネクッテドインダストリーも、ドイツ政府によるインダストリー4.0も、その実現に向けては共通の課題があります。
こちらの課題については、ドイツの事例でも後述しますが、インダストリー4.0の実現は大企業だけでは不可能です。中小企業もつながることによって実現するコンセプトです。
デジタル化の投資、人材不足、ノウハウの流出など、中小企業が尻込みしてしまう課題はたくさんあります。
ドイツも日本も、手をこまねいているわけにはいきません。気が付いたら、自国の中小企業がアメリカのプラットフォーマー(GAFAなど)の下請けになってる・・・なんてこともあり得るのです。
アメリカ企業はBtCには強く、現在世界を制覇したような状態ですが、次に狙っているのはBtBです。
私の経験上、特に昭和的企業が多い日本の製造業においては、新参者のIT業界に対する不信感が根強いように感じています。
意識の高い企業なんかは、思い切ってIT業界と手を結んでますが、スピード感の違い、品質に対する意識の違いなどで、なかなかうまく話が進まないといった内情も耳にします。
自動運転技術の覇権争いが顕著な例ですね!
インダストリー4.0の実現に向けては、その過程でロボット化やデジタル化といった生産合理化が進みます。
そうなると人が余る懸念があります。自分の職を奪う取り組み、自分の会社の存続を危うくする取り組みに、持続性はありませんし、協力は得られません。
この問題についても、官民一体となった対応策が必要です。
私がインダストリー4.0の専門家から聞いた、ドイツの取り組みについてのお話をします。
ドイツと言えば、ビール、ソーセージ、ヒットラーなどなどいろいろ連想できますが、自動車をはじめとした工業製品も有名です。
フォルクスワーゲン、メルセデス、BMWといった世界的に有名な自動車メーカーがありますね。
自動車メーカーを支えるメガサプライヤーや電気機器のグローバルメーカーもたくさんあります。ボッシュ、コンチネンタル、シーメンス、ケルヒャーなどなど。
ものづくり大国という意味では、ドイツは日本にとても似ています。
そして、そのような大企業を支える中小企業も多数存在しています。ドイツも日本も、全企業数における中小企業(従業員300名以下)の比率は99%です。
特に、ドイツの中小企業は、イノベーションに熱心で高い技術力を持っているという特徴がり、輸出志向が高い企業も多いです。
先ほど簡単に説明したスマートファクトリーですが、当然日本でも大企業は取り組んでます。私の会社も推進しています。
これは日本に限らず、世界中の大企業がやってることです。ただし、あくまでそれぞれの企業独自の取り組みとして、です。
ところが、ドイツは2011年から、国家プロジェクトとして政府がトップダウンで推進しているのです。それが大きな特徴。
そしてドイツは、特に中小企業のデジタル化支援を最重視しているのです。
なぜか?
それは、スマートファクトリーという考え方を、ひとつの工場の中で実現するだけではなく、国家をひとつの工場と見立てて実現しようとしているからです。
お金持ちの大企業は大きな工場にあらゆる生産設備を置いて、何でも作れるぞ!って感じですが、中小企業は生産設備も限られたものしか持っていません。
限られた製品や、限られた工程しか対応できないところがほとんどなのです。
たとえば、ネジを通す穴をあけるだけの設備しか持ってないとか、鉄板を曲げるだけの設備しか持っていないとか。
でもそんな中小企業が繋がってひとつになれば、それすなわち大企業に匹敵するあらゆる生産設備を持つことになるのです。
多くの中小企業が集まれば集まるほど、いろんな組み合わせで様々な製品が作れるようになります。
これはまさに「革命」と呼ぶにふさわしい。
お金も人材もある大企業はほっとけばある程度自前でできますが、中小企業はそうはいきません。
でも、99%を占める中小企業がネットでつながりスマートファクトリー化しないことには、このインダストリー4.0の成功はあり得ないのです。
だからドイツ政府は、国家権力を行使して中小企業を積極的にサポートしています。
一方、日本も2015年頃から政府が動き出しています。が、まだまだその取り組みは、企業任せのようにも感じます。
私は仕事柄、多くの中小企業の現状を知っています。経営者の本音もよく耳にします。
日本の製造業において、中小企業は非常に厳しい環境にあります。
顧客である大手企業からはコスト、品質、納期の向上を厳しく迫られ、思うように利益も出せません。
利益が出ないから新しい設備や技術に投資するお金もない、従業員にも十分な給料が出せない。
技術力が上がらないから、中国や新興国との競争に勝てない。大手企業からは仕事がもらえなくなる。
ますます儲からなくなり、従業員は去り、新規雇用も困難・・・
このような負のスパイラルに陥っている中小企業を、私は数多く見てきました。
爪に火を灯すような生産性改善や、外国人労働者の雇用でなんとかしのいでいますが、このような状況に持続性(サステナビリティ)はありません。ジリ貧です。
インダストリー4.0だ、ソサエティ5.0だ、SDGsだ、なんて言っても、生きるか死ぬかの中小企業にはなかなか手が出せないのです。
世界が目指す方向は見えいて、その方向に向けて政府や大企業は走り始めています。
でも、日本の産業や人々の生活を支える中小企業の存在なくして、走り続けることはできません。
コロナ緊急対応によって飲食業界が大きなダメージを受ける一方、通販業界やゲーム業界のように大儲けしている業界もあります。
これは、誰かが被害を受けている、大変だ、かわいそうだ、という話ではなく、世界の地図が変わろうとしていると捉えるべきです。
これまでも世の中の動きによって淘汰された業界はたくさんあります。
第四次産業革命によって、日本の製造業はどのように変わっていくのでしょうか?
中小企業自身も、考え方を大きく変えていくことが求められています。