結論から言いますと、SDGsの目標達成はとても厳しい状況です。
このままでは、子供たちに豊かで幸せな未来は訪れません。
でも、まだ希望は残されています。
それをみなさんにお伝えしなければならないのです。
オリンピックと同じく、4年に一度だけ公表されることになっている、国連による「SDGsグローバルレポート」が、2019年9月に初めて公表されました。
国連広報センター監修により、日本語版も2019年12月に公表されています。
SDGsに関するレポートは世の中にたくさんありますが、これはなにしろ国連が公表しているものです。しかも4年に一度しか公表されない貴重な情報です。
SDGsに関心があるなら見逃すわけにはいきませんね!
ところが・・・日本語版の文字数は3万文字を越え、しかも非常に難しい内容、表現となっていました。ササっと目を通すのに40分以上かかりました。
一部の文章を引用紹介します。
持続可能性に関する科学は、リスク・不確実性・倫理的問題 や予防原則の適切な適用のような、「2030 アジェンダ」を実施する際に提起されるトレードオフや議論のある問題に取り組む上で役立つ。
引用「持続可能な開発に関するグローバル・レポート2019」(国連広報センター監修)
スッと頭に入りますか?
普通の会社員である私にはかなり厳しい・・・
でもその内容は、とても大切なことで、SDGsの課題が的確に述べられているのです。
このレポートは、もっと多くの人が見るべきものです!
だからできるだけわかりやすい表現で、ポイントを絞って説明します。
まずは私の記事を読んで概要を理解してから、国連発表の資料原本に挑戦してみるのもよいかもしれません。
この記事の内容は、あくまで私が原文とにらめっこして意訳をしたものです。
国連から承諾を得て翻訳したものではありませんし、難解な言葉を意訳するために、私の判断で表現や文脈を変えています。そこはご了承の上、参考にしていただければと思います。
このレポートの目的は”発表すること”じゃないよね
目的は、読み手が少しでも理解して行動につなげること!
それをお手伝いしたい!
国連が発表しているレポートは2つあります。
ひとつは、この「SDGsグローバルレポート」で、もうひとつは「SDGs報告」という資料です。
「SDGs報告」は毎年公表されているもので、SDGsの進み具合をデータで示したものです。
アイコンを使って、各種のデータがとてもわかりやすく表現されています。
「SDGsグローバルレポート」は、「SDGs報告」のデータを分析し、その内容をまとめたものという位置づけになります。
データは毎年公表して、その分析内容は4年に一度報告する、ってことですね
まずはSDGsの推進で指導的役割にある方々のコメントから始まります。
SDGsが始まって4年が経過。その目標達成は困難な状況にあり、取り組みの加速が必要
すべての関係者が現実を理解し、問題を「自分ごと」にしなければならない
科学技術の利用や、政治・外交によって、取り組みを強化するべき
過去4年間頑張ってきましたが、今のペースではSDGsの目標達成は困難な状況です。
個人、市民団体、企業、自治体、国連加盟国として、「みんながひとつになって持続可能な世界を実現する」というSDGsの原則をあらためて理解しなければなりません。
私たちの未来は、今何をするかによって決まります。すべての関係者は、このレポートの分析から得られた結果を、行動に変えていかなければなりません。
これまでに重要な取り組みが進められ、様々な協力関係が生まれてきましたが、SDGs17目標のすべてを達成するためには、さらなる取り組みが必要です。
「誰ひとり取り残さない」という理念の達成も、まだ軌道には乗っていません。
このレポートでは、SDGsのすべての目標達成に向けて必要である「科学の役割」を強調しています。そして科学機関に対して更なるサポートと強化が必要であると指摘しています。
1983年、私は国連から「環境と開発に関する世界委員会」を組織し、主導するよう依頼を受け、1987年「Our Common Future(我ら共有の未来)」という報告書を発表し、そこで初めて「持続可能な開発(Sustainable Development)」を提唱しました。
世界では、気候変動への取り組み、グローバルなテクノロジー・消費・人口パターンの急速な変化への対応が不可欠であり、このような大きな課題を解決できる唯一の方法はSDGsである、という世の中の認識は高まっています。
しかしこれを実現するためには、国家だけではなく、企業や市民社会などのすべての関係者が、現実を理解し、「自分ごと」にしなければなりません。
SDGsの取り組みに最も重要なのは「政治的な意志」です。貧困、差別、紛争、不平などを生み出している真因に立ち向かうための、政治的な圧力が継続することです。
SDGsは、国際関係を単なる駆け引きやビジネスとしてとらえるのではなく、多国間による外交によって、すべての国々の利益のために力を合わせることを意味しています。
名指しはしてないけど、トランプ大統領への”さや当て感”がありますね
「SDGsグローバル・レポート」は、国連事務総長により任命された、各地域の 15 名の専門家で構成され、多方面の科学分野と機関を代表する独立した科学者グループによって作成されています。
国連経済社会局
国連教育科学文化機関(UNESCO)
国連環境計画(UNEP)
国連開発計画(UNDP)
国連貿易開発会議(UNCTAD)
世界銀行
「不平等の拡大」「気候変動」「生物多様性の喪失」「処理能力を超えた廃棄物の増加」の4つが大きな課題
SDGs17目標はそれぞれ関連しているので、相乗効果を利用して目標達成を目指すべき
社会・経済・環境の関係性をちゃんと理解すれば、正しい方向に進むことができる
SDGsが採択されてから世界は動き始めました。多くの国々がSDGsを国家戦略に取り入れ、その実現に向けた仕組みづくりを始めています。特に、気候変動や海洋ゴミなどの環境保護に力を入れている国が多く見られます。
国や自治体だけではなく、企業もSDGsの目標を取り入れ、古いビジネスモデルの変革に取り組んでいます。SDGsを支持する市民団体や組織も増加しつつあります。
しかしそのような変化や努力にもかかわらず、SDGs17目標を構成する169の具体的ターゲットを達成する目処は、現在のところ立っていません。この厳しい現実が、国際社会に大きな不安を与え、警鐘を鳴らしているのです。
もっと大きく変えていくためには、各国はSDGsの達成に障害となる政策をあらためなければなりません。
さらに心配されているのは、SDGs全体に大きな影響のある課題が、間違った方向に進んでいることです。
特にこの4つの課題です。
不平等の拡大
気候変動
生物多様性の喪失
処理能力を超えた廃棄物の増加
近年においては、もはや地球環境が後戻りできないほどに、悪い方向に進んでいると分析されています。
このままの状況が続けば、SDGsが目指している人類の幸せと繁栄を、社会や自然がサポートできなくなるのです。
SDGsを達成するために残された期間はわずか10年です。しかし持続可能なレベルの資源利用と、人間のニーズを両立している国は未だ存在しません。
程度の差はありますが、人類の繁栄と健全な環境のバランスを取る、という目標からは遠く離れているのです。
各国は、「自国の成長が優先で環境問題は後回し」という考え方を捨て、それぞれの国にできること、優先すべきことに対応していく必要があります。
これから10年間のSDGsの取り組みは、各国の革新的な取り組みによって、各国が同時に達成できるかどうかにかかっています。
希望はあります。
人類の繁栄を幸せを実現するのに、大量の資源は必要ありません。人の科学力は、新しい道を探し出すことができるのです。
つまりSDGsと科学は、今後人類が進むべき道を指し示しているのです。
SDGsの推進には、社会・環境・経済それぞれのシステムやビジネスモデルを緊急に、そして強い意志を持って変革する必要があります。
国によってやり方が違っていても、この変革は必ず世界や各国にとって良い結果をもらたすでしょう。
そのために必要な多くの知識はすでに利用可能な状態にあり、さらなる研究も進んでいます。
SDGsにおける、社会・環境・経済のアンバランスは、われわれがその関係性を十分に理解していない、また、目の前の課題を優先させるあまり、間違った優先順位づけをしたことに起因しています。
この関係性をしっかりと理解さえすれば、正しい方向に進むことができるのです。
それぞれの目標を達成する最もよい方法、そして唯一の方法は、他の目標との相乗効果を利用することです。そして、両立が難しい関係にある目標においては、そのマイナスのトレードオフを改善することです。
SDGs達成に向け、国連加盟国の政府だけではなく、様々な組織や人々が動くことができる状態にあります。
実際、世界においても新しいプレイヤーが現れ、より大きな影響力を獲得しつつあります。革新的で強力なパートナーシップは、従来の関係者と新たな関係者との協力から生まれます。
よってSDGsの成功は、様々な領域、場所、段階における政府、研究機関、行政機関、民間団体、そして市民社会の協力にかかっていると言えるのです。
このレポートでは、変革を実現するために6つの注力すべき取り組みを示しています。
① 人類の繁栄と幸せの向上
② 持続可能でフェアな経済への移行
③ 食料と栄養の持続可能な供給
④ エネルギーの脱炭素化と普遍的な供給
⑤ 持続可能な都市及び周辺部の開発促進
⑥ 地球環境コモンズ(共有資源)の確保
それぞれについて説明します。
人類の繁栄と幸せは、経済成長だけでは実現できない。人間の能力向上も必要。教育はSDGs達成において費用対効果が高い手段である。
貧困の原因は様々で、それらは複雑に絡み合っている。あらゆる角度から見て、広い範囲で強力に対応しなければならない。
環境や情勢の変化に耐えられる世界をつくるためには、公共サービスの安定供給が重要。
人類の繁栄と幸せにダイレクトに関わる健康、教育、安全、防災などは、SDGsの中核を成しています。
そして、その実現に向けては、人間の能力向上も重要になってきます。
知識、技能、精神、身体能力といった人間の能力こそが、グローバルな社会、経済、環境を動かす原動力なのです。
この数十年、人間の幸福度は大きく向上してきましたが、国によって大きなバラつきがあります。
ひとり1日200円以下で暮らす極度の貧困層は、2018年に世界人口の8.6%を占め、その半数以上がアフリカのサハラ以南と南アジアの5カ国に集中しています。
そして2030年には、世界で約4億人存在する「極度の貧困層」のほとんどが、経済破綻や紛争の影響を受けた国に集中すると予想されています。このままでは2030年までに極度の貧困を根絶するという目標は達成できません。
極度の貧困は、女性、少数民族、先住民族、障がい者のように、すみに追いやられた人々に集中しています。
特に、人口の半数に及ぶ女性のチャンスや能力を抑えつけるようなジェンダー不平等は、貧困女性の状況をさらに悪化させています。
障がい者に対する社会的な保護が不十分な国では、障がい者の教育水準は低く、失業率が高い状態にあり、経済格差も拡大しています。
貧困の原因としては、低所得、不健康、教育水準の低さなどがありますが、これらの原因は複雑に絡み合っていて、簡単には解決できないのです。
各国政府や自治体は、すみに追いやられた”取り残される可能性が高い”人々に注意し、彼らを助ける努力をしなければなりません。
1日200円以下で暮らす極度の貧困層は4億人ですが、1日200~300円で暮らしている人々はさらに10億人もいます。”かろうじて極度の貧困から抜け出した”人々です。さらに、社会的保護をまったく受けていない人は40億人もいるのです。
これらの人々は、経済や環境の変動、紛争などによって、極度の貧困層に押し戻されてしまうリスクが高いのです。
貧困の撲滅やジェンダー平等の推進といった、不平等を解消する取り組みは相互に関係しています。広い範囲での強力な介入と、具体的なアクションが求められているのです。
これは経済成長だけでは達成できません。教育、医療、衛生サービス、クリーンな水やエネルギーへのアクセスなどの、公共福祉も必要です。質の高い社会サービスや、防災、減災といった自然災害からの保護は、誰しもがその恩恵を受けれるようにしなければなりません。
女性や子供たちを抑圧している法律や社会的な差別は即撤廃されるべきです。すべての人々の人権、尊厳を守らなければなりません。
人類の繁栄と幸せを実現しながら、地球の資源を大切に使っていくためには、単に所得を増やすだけではいけません。人々が、変化を生むのに十分なパワーが持てるように、人間の能力を向上させる必要があります。
能力を向上させる機会は増えてきています。
昨今においては、質の高い教育へのアクセスが容易になり、様々なセミナーや講義への参加者は増えています。人の健康寿命は延び、生涯にわたって教育を受ける機会が高まっています。教育は、SDGsを推進する上で費用対効果が高い手段でもあるのです。
効果を出すためには、教育や健康、環境、社会などの関連性をしっかりと認識して対応しなければなりません。例えば、気候変動と健康の関連性、生物多様性と所得格差の関連性、などです。この組み合わせは、国や地域によって様々であり、また取るべき手段も変わってくるのです。
SDGsに取り組むすべての国家、団体、個人は、質の高い社会サービス(健康、教育、水、衛生、エネルギー、災害リスク管理、情報通信技術、適切な住宅、社会保護)の安定的な提供に努力しなければなりません。
そして、あらゆる角度から世界を見て、それが奪われている状態を根絶し、人類が環境や情勢の変化に耐えられる世界をつくるのです。
経済発展のために消費の拡大は必要だが、より小さなモノやサービスの消費にシフトし、経済と環境のバランスを取らなければならない。
権力者は、自らの地位を守るために、あらゆる手段で不平等と格差を定着させようとるすため、経済格差は次の世代にも引き継がれていく。
不平等な社会の仕組みを変えていくためには、SDGsに投資を振り向ける必要がある。
地域差はありますが、世界経済の成長によって国民所得は大幅に増加しています。
その結果、経済的な幸福度は向上していますが、社会と環境に好影響を及ぼすまでには至っていません。
経済活動は、所得が増えればいいというものではなく、人間の能力を持続的に向上させる手段であると考えなければなりません。
また、経済を発展させ貧富の差を埋めるために消費の拡大は必要であるが、環境への影響が少ない、より小さなモノやサービスの消費にシフトし、経済と環境のバランスを取ることも求められています。
企業による生産のグローバル化によっても課題が生まれています。
様々なモノの生産が複数の国にまたがることによって、雇用や所得が生まれ、貧困は減り、生活の利便性は高まります。しかし、それぞれの国で販売や価格の競争が激化することによって、環境や労働条件を犠牲にしてでも勝たなければならない、という動きも出てきます。
しかし、各国がこのような動きを規制するための制度や仕組みは、未だ十分とは言えません。
結果として、経済成長によって生まれる富は裕福な国に流れていくこととなり、経済成長のバランスは崩れます。2017年では、1%の富裕層が全世界の33%の資産を所有していました。一方、25%の貧しい人々が所有する資産はわずか10%です。この所得格差は、多くの国でかつてないスピードで今でも拡大しています。
富裕層と貧しい人々の間に位置する中間層の所得の伸びも低迷しています。
さらに、世界中の生産現場では、ITの進歩により自動化・無人化が進んでいます。この自動化は、さらなる不平等を生み、富と権力のさらなる集中をもたらすリスクもあります。
このようにして生まれた不平等が、ジェンダー平等や女性の活躍の障害となっているのです。
このような格差から人々は逃げ出すこともできず、結果として次の世代にも引き継がれていきます。権力者は自らの地位を守るために、あらゆる手段で不平等と格差を定着させようとするからです。
目先の利益だけを追求した生産活動は、社会正義としての問題を引き起こすだけではなく、長期的な経済成長さえも阻害するのです。
このような生産と消費における不平等は、SDGsの達成には脅威です。
不平等を生み、資源を枯渇させ、取り返しのつかない損害をもたらすリスクのある経済成長と生産・消費のパターンからは、すぐに脱却しなければなりません。そして、長期的でかつ持続的な発展に向けて動かなければなりません。
不平等な社会の仕組みを変えていくためには、SDGsに投資を振り向ける必要があります。政府も民間も、長期的な視点でSDGsに向けた投資を奨励しなければなりません。
投資を集めるためには、SDGsの実現を支援する国際的な金融システムが役立つでしょう。資金の流れは透明性が確保され、SDGsの目標を達成するために正しく使われるべきなのです。
食料の生産を増やせば、温室効果ガスの排出が増える。生産効率を上げるために化学物質を使えば、環境に悪影響が出る。今の食料の生産・供給システムは持続可能ではない。
技術の進歩だけではなく、世界中すべての人々が食料を手にすることができるようにするためには、政治や社会制度、文化も変えなければならない。
世界各国は、食料の生産から供給まですべてのシステムに、環境への影響を減らす責任がある。先進国は途上国の食料生産を支援するべきである。
世界では10 億人以上の人々が食料の生産に従事しています。
しかし、気候や自然環境の影響によって、地球上すべての人には健康で安全な食料と栄養が行き渡っていません。つまり、今の地球における食料の供給は持続的ではないのです。
8 億2,000万人以上の人々が飢餓状態にある一方で、20億人が肥満状態なのです。
自然環境の変化や開発によって、毎年広大な土地が食料の生産に使えなくなってきています。
現代の食料生産で排出される温室効果ガスは、世界で排出される総量の20~30%を占めています。
土壌の回復や、食料生産の技術的改善をしなければ、2050年の世界人口を満たすだけの食料を生産した場合に、温室効果ガスは87%増加すると言われています。
SDGsで目指す世界と矛盾した状況にあるのです。
食料の価格や取引契約もアンバランスになっています。食料を生産している途上国に不利な契約が結ばれ、貧困層にある小規模農家を苦しめています。
生産効率をあげるために、化学物質を投入するようなビジネスライクで工業的な食料生産を続けていけば、環境への悪影響が避けられず、SDGsは達成できません。
今の食料の生産・供給システムでは、将来にわたって世界中の人々を支えることはできないのです。
変わることはできます。
最近の研究では、環境への影響を大幅に抑えながら、100億人に食料と栄養を供給できるシステムも紹介されています。
ただし技術の進歩だけでは実現できません。
世界中すべての人々が、食料を平等に手にすることができるようにするためには、政治や制度、文化の変革も必要です。
多くの開発途上国には、過去から引き継がれてきた知識や伝統をベースにした独特の農法があります。これらの農法は、環境ストレスに強く、劣化した土壌や悪天候に強いという研究結果も出ています。
特に、化学肥料に大きく依存している農作物の生産では、気候と環境への影響を最小化するために、このような伝統的な農法も参考にするべきです。
環境への影響を抑えながら、世界中の人々の健康を促進し、栄養失調を解消する食料生産・供給システムに移行する必要があります。そのために、インフラ、政策、規制を大きく変えていかねばなりません。
各国は、食料の生産と供給において、気候変動や環境変化に対する対応力を高め、環境への悪影響を減らすために、生産から供給までを含めた全体に対して責任を負わなければなりません。そして、先進国は途上国の食料生産を様々な領域において支援する必要があります。
化石燃料に依存している世界の温室効果ガス排出の40%は発電からで、生産活動と輸送を含めると70%となり、SDGsの達成に未だ大きなリスクとなっている。
自動車の電気化は進んでも、飛行機や船舶といった化石燃料に頼らざるを得ない輸送手段は、特に途上国において需要が拡大している。
途上国の経済発展と地球温暖化を両立するには、より安価な再生可能エネルギーと生活インフラの電気化に向けた、特別な取り組みが必要。
世界保健機関(WHO)によると、”エネルギーの貧困”は依然として深刻です。
主にサハラ以南のアフリカでは10 億人近くが電気を利用でない状態にあります。
また、30億人以上の人々が汚染物質を排出する固形燃料を使って調理しており、推定で毎年380万人の早期死亡の原因となっています。
そして多くの地域では、女性や子供たちが、木くず、わら、動物のフンといった燃料を、集めたり運んだりするのに多くの時間を費やしています。
世界の発電、生産、輸送は化石燃料に大きく依存しています。
世界の温室効果ガス排出に占める発電の割合は40%。生産と輸送を含めると約70%を占めています。
一方、太陽光発電と風力発電は急速に拡大しています。これら再生可能エネルギーは拡大し続けており、2016年では発電の25%が再生可能エネルギーによる発電でした。
しかしながら、生産と輸送においては、再生可能エネルギーの利用はまだ少なく、それぞれ9%と3%しかありません。また発電においても、送電網や電力の貯蔵においては未だ課題が残されています。
再生可能エネルギーが、石炭や石油のような化石燃料に大規模に取って代わることは困難であり、SDGsの達成にリスクをもたらしています。
化石燃料への補助金は、未だ再生可能エネルギーを上回っており、市場価格に歪みが生じています。
自動車については、2020年代をピークに電気化が進んでいくと予想されていますが、トラック、船舶、航空機といった化石燃料に頼らざるを得ない輸送手段は、特に開発途上国において需要が急速に増えつつあります。
電気自動車は、温室効果ガスの排出を削減する点では大きなメリットがありますが、その普及においては、インフラや政策次第という面もあります。
化石燃料の代替としてバイオマス燃料の活用も進んでいますが、自然環境への影響や食料生産との関連も慎重に検討されなければなりません。少なくとも、バイオマス燃料の燃焼は、大気汚染の大きな原因となりますので、その利用は規制されるべきです。
1965 年から2015 年にかけて、世界の一人当たりのエネルギー消費は石油換算で46%増加しました。先進国の個人消費量は、途上国の3~4倍の消費です。エネルギー需要の増加が、エネルギー効率化を上回っているからです。
さらに、主に途上国の都市部における収入と人口の増加によって、世界レベルのエネルギー消費は2040年までに25%増加すると予想されています。
エネルギー効率の大きな改善無くしては、2030年も化石燃料が主要なエネルギー手段となり、大量の温室効果ガスを吐き出し続けるのです。
2017年には電気にアクセスできない人口が初めて10億人を下回りました。
しかし2040年時点においても、南アフリカの農村に住む6億5,000万人の人々は、電気を使うことができないままであると予測されています。
世界の電力消費量は増加する一方です。
特に途上国の経済的発展と地球温暖化対策のためには、より安価な再生可能エネルギーと生活インフラの電化に向けた特別な取り組みが必要なのです。
バイオマス燃料を調理に使うことは見直し、よりクリーンで安価な電気の普及を政治的な優先事項とするべきです。
そして世界のエネルギーシステムの再構築に向けて、全世界が協力する必要があります。パリ協定の目標を達成するためにも、今世紀半ばまでにCO2排出量をゼロにする取り組みに全面的に参加する必要があります。
地球の表面積2%の都市は41%相当の水を使い、温室効果ガスの70%は都市から出ている。都市に住む人々は農村に住む人々の犠牲の上に生活が成り立っているとも言える。
利便性の高い都市も決して住みやすい環境にはない。災害リスクが高く、大気汚染も深刻。所得格差も大きく、健康、安全、教育の不平等をもたらす可能性もある。
SDGsで目指す都市は、コンパクトですべての人々にとって利便性が高く、環境と調和した都市。また、誰ひとり取り残されることなく、仕事が得られ、安全、医療、教育にアクセスできる都市である。
2050年には、世界人口の約70%が都市部に住み、世界経済の85%を占めると予測されています。
これらの都市部に住む人々の環境への影響は極めて大きく、農村地域に住む人々の犠牲の上に、その生活が成り立っているとも言えます。
地球の表面積ではわずか2%しかない都市部に住む人々が、41%の表面積に相当する水を必要としているのです。
化石燃料によって地球に排出されている温室効果ガスの70%は都市部から出ています。
都市部の発展により、大量の資源(鉄鉱石、木材、砂など)が消費され、限りのある資源が、もう取り返しがつかないところまで枯渇することになります。同時に資源の採掘によって、自然環境は破壊されていき、動植物にも悪影響が出ます。
そこまでして発展した都市部も、決して住みやすい環境にあるわけではありません。
多くの都市は沿岸地域に集中しており、台風や地震といった災害のリスクが高く、大気汚染も進んでいます。所得格差も大きく、健康、安全、教育の不平等をもたらす可能性もあります。
利便性が高いと思われている都市部ですが、実際多くの人々は、ゴミを処分するシステムもない、バリアフリー化されたショッピングセンターもないような場所に住んでいるのです。
南アフリカでは、都市人口の半数以上がスラム街に住んでいます。北米やヨーロッパにおいても、多くの都市には富裕層と貧困層を隔てる所得格差が存在しています。
しかし近年の都市化では、最新のインフラが取り入れられており、適切にコントロールされた都市化が進めば、SDGs達成に大きく貢献することでき、世界の模範都市となることも可能です。
SDGsで目指す都市は、コンパクトで、すべての人々にとって利便性が高く、環境と調和した都市です。また、誰ひとり取り残されることなく、仕事が得られ、安全、医療、教育にアクセスできる都市です。
そのような都市を実現するためには、行政があらゆる自治体と協力しながら、リーダーシップをもって計画的に進めなければなりません。
沿岸部に住む人々にとっては、自然災害への対応も重要になります。
このような努力によって実現した住みやすい都市は、周辺の町や農村地域と、不平等のない共生的な関係を実現するのです。
各都市が市民参加型で政策立案に関与できるように、中央政府は各都市に自治権と資源を与えるべきです。
政府と自治体は、民間とも協力しながら、人間を中心に考えた政策と投資を促進するべきです。そして様々な公共サービスへのアクセスと持続的に提供できる、住みやすい都市を実現しなければなりません。
海洋、森林、大気圏などの共有資源は、人類の繁栄と幸せには不可欠な存在。地球全体の環境に影響を及ぼし、その枯渇が限界を超えると、社会的、経済的なリスクが発生する。
多くの共有資源は人口のインフラで完全に置き換えることはできない。資源はお互いが複雑に関係し合っており、人口のインフラに置き換えたところで、代わりにはなれない。
政府や関係者は、SDGsを達成すると同時に、共有資源の保護、回復、持続可能な利用に必要な変革を達成しなければならない。教育や社会運動を通じて、人々に前向きな変化をもらたすことも重要。
地球の共有資源は、大気圏、水圏、全球海洋、寒冷圏、極地、森林、土地、水などの天然資源で構成されています。これらは地球規模の生態系に深くかかわっており、人類の繁栄と幸せに不可欠なものです。
共有資源は、人間の活動によって変化し、最終的には地球全体の環境に影響を及ぼします。その枯渇が限界を超えると、社会的、経済的、政治的なリスクも発生します。
資源の乱獲・化学汚染・外来種の侵入・密猟・プラスチック廃棄。特に大きな影響を与えているのは気候変動です。そして共有資源はお互いが関連し合っているため、地球環境に様々な悪影響を与えているのです。
これらの共有資源を効率的に使い、分け合い、リサイクル処理する方法をしっかりと管理しなければなりません。
そして多くの共有資源は、人口のインフラで完全に置き換えることはできません。
共有資源はお互いが複雑に関係し合っており、何かを人口のインフラに置き換えたところで、すべての代わりにはなれないのです。
特に生態系への影響は深刻です。
近年における世界の種の絶滅は、過去1000万年の平均よりも数千倍も高いと言われています。今も100万種が絶滅の危機に瀕しています。これにはわれわれの食料となる動植物も含まれています。
途上国の都市で深刻な問題となっている大気汚染は、人間の健康に大きなリスクとなっており、世界の91%の人々が、WHOの定める汚染物質ガイドを超えた大気を吸っています。この大気汚染により、年間800万人が早期死亡しているとも言われています。
海洋は、SDGsの17目標の「持続可能な開発目標」のほとんどに関わっています。人々に食料と雇用をもたらし、気候変動を調整する役割も持っています。海洋ゴミは、海洋の生態系を危険にさらし、人々の生活をリスクにさらしているのです。
気候と生態系に重要な森林も驚くべきスピードで消滅しています。特に熱帯地域においては、農業、資源採掘、都市化を目的に森林伐採が進んでいます。植林も行っていますが、炭素の吸収は森林が失われるペースには追いついていません。
淡水の利用にもリスクがあります。2025年までに、18億人が水不足を経験し、世界人口の3分の2が水ストレス状態になる、と予測されています。干ばつと水不足は、すべての自然災害の中でもっとも広い範囲に影響を及ぼし、長期にわたって経済や自然にダメージをもたらします。
「国連気候変動枠組条約」や「生物多様性条約」などの多国間協定は、共有資源を保護し、地球を持続的に管理するための仕組みです。
しかし共有資源の持続的な管理は、グローバルからローカルまであらゆるレベルでの様々な行動が必要です。
教育や社会運動を通じて、人々に前向きな変化をもらたすことも重要です。
政府や関係者は、SDGsを達成すると同時に、共有資源の保護、回復、持続可能な利用に必要な変革を達成しなければなりません。
地球環境に影響を与える要因をつかみ、規制やガイドを通じて、そのメカニズムを変えていかなければならないのです。
科学と技術は、その活用方法によって、よくも悪くも大きな変化を生み出すことができるもので、SDGs達成に向けて大きな原動力となる。
SDGs達成に向けては、科学技術を誰しもが利用できるようにしなければ意味が無い。一部の人々しか利用できない技術は、さらなる不平等をもたらし、結果としてSDGs達成の障害となる。
SDGs達成のための研究開発には、まだまだ投資が不足。ほとんどの投資や研究は、ビジネスの一環として推進されているため、公共と民間の投資のバランスが不可欠。
科学と技術は、その活用方法によって、よくも悪くも大きな変化を生み出すことができるもので、SDGs達成に向けて大きな原動力となります。
世界各国や企業の研究開発への投資は、2007年から2013年の間に30%も増加しています。これは世界のGDP成長率20%を超えているのです。
過去10年間では、世界のGDPの90%以上を占める101ヵ国が、国家としての産業開発戦略を採用しており、イノベーションを模索する機会が増えてきています。
ただし、SDGs達成に向けては、技術開発だけでは不十分です。
世界中すべての国が、それぞれの抱えている課題に対応するためにも、その技術を誰しもが利用できるようにしなければ意味がありません。
先進国と途上国の間では、未だ科学や技術の大きな格差が存在しています。
一部の人々しか利用できない技術は、さらなる不平等をもたらし、結果としてSDGs達成の障害となるのです。
科学技術への投資は増加していますが、SDGs達成のための研究開発には、まだまだ投資が不足しています。
ほとんどの投資や研究は、ビジネスの一環として推進されていますが、公共と民間の投資のバランスが不可欠です。
あらゆる関係者が、既存の知識を動員・利用・拡散し、SDGsを加速するために、学術団体とすべての分野で協働する必要があります。そしてSDGs を達成するための国家間の技術移転を促進するよう、効果的な努力をしなければなりません。
政府・研究団体・大学は、低・中所得国や特別な状況にある国において、質の高い高等教育へのアクセスを現状より高める必要があります。また、科学や工学分野における男女平等を積極的に促進しなければなりません。
2030年に向けたSDGsですが、4年が過ぎた今、このままでは目標達成ができない状況にあることが理解できたと思います。
今のペースではだめなのです。
「徐々に」ではなく「抜本な」変革が必要です。
政府や公共機関は、行政計画や予算を検討するプロセスにSDGsを積極的に組み込まないといけません。
資金や技術を、このレポートで提案している6つの注力すべきポイントに振り向けるのです。
また国連などの国際機関は、各国がSDGsに取り組むことで得られた教訓や情報を、全世界に届けなければいけません。
政治だけではなく民間との連携にも取り組まなければなりません。
そして世界中の国が、企業が、人々が、今すぐに行動するしかないのです。
あなたは子供たちの未来ために
今、何をするのですか?