「わが社は今、大きな危機に直面しています」
「今年が正念場になるので、これらの施策を必ずやり遂げましょう」
このような経営者からのメッセージはどこの会社でも聞こえてくるものだと思います。
私の会社でも、定期的に社長メッセージが全社員に届けられていますが、話の流れは概ねこんな感じです。
この流れは「鉄板」のような流れで、私には何の違和感もありませんし、いつも社長から届けられるメッセージは正座して拝聴拝読しています。
うちの会社は、全従業員向けのメッセージと平行して、管理職向けのメッセージも用意されていて、そちらの情報はもっと生々しいものとなっています。
”社外に公表できないような”リアルな経営数値や具体的な施策などにも触れられています。
私の会社は業績は決して悪くありませんが、「今年が正念場」と言い続けて早何年・・・みたいな感じなので、一般従業員は「はいはい、毎年そう言ってるよね」という空気です。
ところが、経営企画部門にいる私にはよくわかるのですが、会社の状況や経営数値をリアルに見ていくと、実は毎年が正念場であって、ギリギリなんとか耐えている状況だったりします。
大きな船の客室にいるとわからないかもしれませんが、操舵室ではドタバタと懸命に舵を取っているのです。
そしてそんなドタバタ操舵の実態は、全従業員に知らされることはありません。
経営者や役員にしてみると、「会社はこんなに大変な状況なのに、なんで現場はのんびりしているんだ!」と苛立ってしまうのは当然でしょう。
時には、「うちは危機感が足りない!」と、従業員に危機感を強く煽ることもあります。
うちの某役員さんの話です。
この方は若くて優秀なのですが、かなり上から目線の「俺様」系、他人を見下したような発言や態度が多いキャラです。
「うちは危機感が足りないから、このフォーマットをみんなに埋めさせよう」とエクセルファイルを管理職連中に送ってきました。
一番左には、会社の直面する危機やリスクが箇条書きで並べられています。この役員が自ら記入したものです。
そして、それぞれの危機に対する「要因と課題」「具体的な対応策」「納期」を、従業員それぞれに埋めてもらうことで、危機感を自分ごと化させよう、というのです。
役員の危機感をそのまま若者に押し付け、具体策を考えさせて、納期までコミットさせ、挙句の果てに尻叩きをする・・・
こんな仕事、楽しい訳がありませんよね。
さすがにこれは受け入れられなかったので、役員と相談して、
・このフォーマットはとりあえず管理職だけで埋めてみましょう
・危機だけではなく、明るい未来や自社の強みもバランス良く表現しながら作ってみましょう
ということで話をつけました。
経営者と同じレベルの危機感を、情報量に圧倒的な差がある末端の従業員が同じレベルで持つことはあり得ません。
どんなに的確な表現で文字にしたところで、頭では理解できても腹落ちは簡単ではありません。
でも、うまく煽ればある程度は危機感を共有し、従業員の奮起を促すこともできると思います。
うまく煽るというのは、ただ危機感だけを植え付けるのではなく、それ以上に大きな夢や希望をセットで見せることです。
トヨタ自動車さんなんかは、うまくやってるなぁと思います。(外から見ている限りでは)
昔から「勝って兜の緒を締めろ」みたいなことを公言していて、2020年の労使交渉でも社長自らが危機感の希薄化に、強烈に問題提起しています。
>>トヨタイムズ『トヨタ春交渉2020 第1回 指定席を立った社長 管理職と向き合う』
そして2021年12月14日には、トヨタ自動車さんがBEV(電気自動車)戦略を公表し、2030年までに30種類のBEVを展開する構想を発表しました。
BEVにネガティブと勘違いされ気味だったトヨタ自動車さんが、「やろうと思えばやれるんだよ、コノヤロー」と逆襲しているようで、本当に夢と希望にあふれた発表だと感じました。
おそらく従業員向けには、危機感とセットで、より具体的な社内説明をしているんじゃないかと思います。
こういった企業発表は、世間や自社従業員に対してだけではなく、系列会社や部品サプライヤー等の”社外の身内”に対しても強烈なメッセージにもなりますね。
私の会社も、世間をアッと言わせたり、従業員に夢と希望を与える未来を検討していたりするのですが、そういう話は極秘扱いのケースが多いので、なかなか心苦しいところではあります。
全社員で危機感を共有することを否定はしませんが、危機感の持ち方のレベルは職位によって差があります。
社長は眠れぬ夜を過ごす日々であっても、従業員には毎日ぐっすりと眠ってもらって、夢と希望を持ってやるべきことを粛々とやってもらえるよう、管理職はその環境整備とマインドづくりに注力しなければいけませんね。