いきなり質問ですが、ビジネスパーソンとして、あなたの座右の銘は何ですか?
私の場合は、この孔子の名言です。
もう絶対これです。これしかないです。
管理職になって約20年、海外でのマネジメントも経験しましたが、「結局この言葉がすべてだな」と感じています。
給料が高いとか安いとか、いい会社だとか悪い会社だとか、ビジネスパーソンに悩みは尽きません。
管理職には、部下を育てるとか、仕事の成果を出すとか、いろいろと使命もあります。
でも結局は目の前の仕事を楽しめるかどうかが、人生の幸福度にとっては大きいんじゃないかと思います。
特に管理職にとって何よりも大切なことは、
ではないでしょうか?
「あなたの職場のみなさんは仕事を楽しんでいますか?」
「はい!もちろんです!」とはなかなか答えにくいかもしれません。
「仕事は楽しいですか」というアンケート調査は、これまでいろんな企業や団体で行われていますが、どのアンケートを見ても結果はほぼ同じです。
楽しい人、楽しくない人は半々です。
ちなみにリクルートのアンケートではこのようになっています。
60代で「楽しい」が跳ね上がっているのが興味深いですね。
60代でまだ働いている人は、世の中を達観できていたり、役員に出世して大きな仕事をやっているのかもしれません。
リクルートでは同アンケートで、「仕事を楽しくするために大切なことは?」という調査も行っています。
その結果がこちらです。
同様のアンケートをネットで片っ端から調べてみましたが、だいたいどれも似たような結果です。
「人間関係」は不動の1位です。
会社の事業内容や給料、福利厚生といった問題は、アンケートの設問内容によって出たり出なかったりです。
どのアンケート結果でも共通している「仕事がつまらない理由」はこの3つです。
これらは鉄板です。
管理職としては見過ごせない話です。
「仕事が楽しいとか楽しくないって本人次第でしょ」と思ってしまったら、管理職としては失格です。
「イヤなら辞めろ!」とか言う管理職なんて最低ですね。「そう言うあんたが辞めろ」と言いたいです。
人間関係をよくするのも、仕事のおもしろさを教えるのも、部下の成長を支えるのも、管理職のきわめて重要な仕事です。
あなたの会社や職場に「仕事ができる人」って必ずいると思います。
あなたの上司も「イヤなヤツだけど仕事はできる人」かもしれません。
実際、私のまわりでも仕事のできる社員というのは、間違いなく仕事を楽しんでいます。
そしてまわりにも認められて、確実に出世しています。
仕事を楽しむ、とは具体的にどんな状態でしょうか?
私のまわりの仕事ができる人、すなわち、仕事を楽しんでいる人の特徴は3つです。
あくまで私のまわりで、という話です。
① 仕事とプライベートの境界線が無い
仕事ができる人は、仕事中によくプライベートの話をしてます。
かと思えば、プライベートのときにも仕事の話をよくします。
仕事とプライベートを切り分けるという発想がそもそも無い。
ワークライフバランスって何?みたいな感じですね。
つまり、お金のためだけに働いているのではなく、仕事もプライベートも一括りにした人生そのものを楽しんでいるのです。
結果的に仕事も成功して人よりお金ももらってるんだから、人生丸儲けって感じですね。
② 仕事を選り好みせず何でも一生懸命やる
組織で働くかぎり、あまり気が進まない仕事を与えられることは仕方ありません。
でも仕事を楽しんでいる人は、文句は言いつつも、アウトプットに手は抜きません。
ここまでやる?というくらい、期待を超えるアウトプットを出しています。
どんな仕事でも、自分なりに意義やメリットを見出し、自分なりに納得して仕事をしています。
よく言われる「仕事を自分事(じぶんごと)にする」ってやつです。
③ 褒められてもあまりよろこばない
これは世間一般に当てはまらないかもしれませんが、私のまわりで仕事を楽しんでいる人の特徴です。
仕事ができる人に「さすがですね!」なんて言っても、「いや、そういうのはいいから。そんなことより・・・」と会話をそらされることが多いです。
見返りを求めず、自分がやりたいことをただやっているだけなので、そこを褒められても違和感を感じるんでしょうね。
あなたの趣味が読書だったとします。
もし誰かに「読書が趣味なんてすばらしいですね」と褒められても、「いや、好きで本読んでるだけなんで、そんなすばらしいとか言われても・・・」と困惑しますよね。
でも「オススメの本について詳しく聞かせてください」と言われたらうれしいもんです。
結局のところ、「仕事が楽しい」というのは、「人生が楽しい」と言い換えられるのではないでしょうか。
つまり、仕事が楽しめていない人は、人生も楽しめていない、人より少し損な人生を歩んでいるのだと思います。
一般的にマネージャーや管理職の役割については、
人財育成、目標の設定、方向性を打ち出す、戦略を立案する
などがあります。
どれも正しいし大切なことです。もちろん私も日々このような仕事をしております。
ほとんどの管理職は、もともと仕事が好きで楽しむことができる人間であり、平社員の時から、様々な成果をあげて昇格した優秀なビジネスパーソンであるといえます。
そのような優秀なビジネスパーソンであれば、目標の設定とか人財育成のような、一般的な管理職の役割は当然頭で理解しています。
そして実行する能力もあります。
でもそのような優秀な人が管理職になったとたん、成果が出せなくなることがあります。
部下の面倒見がよく、人財育成にも熱心に取り組み、業務目標や戦略を正しく考え、部下に説明している。
それでも成果が出ないのです。
この最大の原因は、
自分勝手な思い込み
です。
自分ができるのだからみんなできるはずだ
自分が好きなのだからみんな好きなはずだ
自分が楽しいのだからみんな楽しいはずだ
無意識のうちにこう考えているのです。
以前、私の同僚が上司にブチ切れしたことがありました。
その同僚は年配のベテラン社員、上司は役員候補のエリートで彼よりも年下でした。
エリートといっても人柄よく、年上部下にはそれなりの配慮ができる人でした。
ある日その上司が、なかなか成果が出せない年配部下に「なんでうまくいかないんですかね?」と聞いていたんです。
悩んで沈黙する年配部下に、上司は次々とアドバイスをしていました。
「こうだからじゃないですか?いや、こうだからかな?」
しかし突然、年配部下が声を荒げたのです。
「やれと言われてできるなら、俺はお前の部下になんかなってない!!」
これにはエリート上司も何も言い返せませんでした。
上司が部下に配慮するように、部下だって上司に配慮してくれているのです。
仕事が大好きで、情熱をもって仕事に取り組む上司に対して「自分とは違うな」と感じながらも、黙って従ってくれているのです。
そこに気づかないと、このようなことになります。
この年配部下は、エリート上司が考えているほど、仕事が好きではないし、楽しくもなかったのです。
自分の出世が難しいことを理解し、それでもお金のため、と黙って働いていたのでしょう。
そんな彼に、どんなに正しいことを伝えても、どんなに丁寧に熱心に伝えても、エリート上司の思うようにはいかなかったのです。
自分が仕事を楽しく感じているからといって、部下も仕事を楽しんでいるとは限りません。
さきほどのアンケートの結果を信じるなら、あなたの部下の半分は楽しんでいないのです。
人財育成、目標の設定、方向性を打ち出す、戦略を立案する。
これらは間違ってはいません。
でも、これを正しく実行しても、半分の部下はお付き合いなのです。
上司の気持ちに配慮して、従ってくれているだけなのです。
思うような成果が出ないのも当然でしょう。
仕事のベースになるのは、やはり楽しむことであり、最強チームを作るには、職場のみんなが「仕事って楽しい!」と感じられるようにするべきです。
部下の潜在能力を引き出し、最大のパフォーマンスを発揮してもらうには、みんなが仕事を楽しむことにつきます。
もともとの天才であったり、努力家であれば、ある程度放っておいても成果を出してきます。
でも残念ながらそんな人はあまり存在しません。
ほとんどの部下は、なるべく楽して成果を出して、仕事もプライベートも充実させたいと考えるふつうの人たちです。
天才になれ!努力家になれ!といっても簡単ではありませんし、上司ががんばって指導してもかんたんではありません。
そんなふつうの人たちの潜在能力を解放するには、仕事を楽しんでもらうのがてっとり早いのです。
そして、仕事を楽しんでもらうことは、天才や努力家をつくるよりはるかに現実的です。
仕事を楽しむことができるようになれば、天才や努力家は放っておいても生まれくるでしょう。
その第一歩として、まずは管理職であるあなたが、
ということを意識し、あなたの勝手な思い込みを捨てることです。
管理職として正しいことをする前に、部下が仕事を楽しく感じるような職場をつくる努力をしてください。
具体的にどのようにすれば、部下が仕事を楽しく感じてくれるのでしょうか?
やり方は人それぞれですが、私はこれら5つのことを実践しています。
いずれも大したことではありませんが、私は欧米企業で働いた経験もありますので、欧米と日本の文化をいいとこ取りした自己流のやり方です。
ではそれぞれについて説明します。
部下の誕生日には、こっそりと本人にだけ小声で「おめでとう」と伝えて、机の上にポンと缶ジュースでもおいてみてください。
こっそりと、がポイントです。
これ、職場のみんなの前でやってしまうと、職場行事みたいになってしまいます。職場行事みたいになると、仕事感が出てしまいます。
あくまで、あなたが個人的にお祝いする、という形にするよう注意してください。
誕生日が休日のケースもあるので、職場行事にしてしまうと不公平感が生まれます。
仕事とプライベートの境界線を薄めるための突破口とするのがこの目的です。
境界線を薄めて、仕事とプライベートを、人生というひとつのかたまりにして、楽しんでもらうのが最終目的です。
「今日誕生日ですよね?」と言われて、照れはしても、イヤな気分になる人はいないと思います。(「いくつになったんですか?」はアウトです。特に女性に対しては!)
「休日は何してますか?」と聞かれると、人によっては拒否反応がでます。
会社の人間がプライベートに入ってくるのをいやがる人は意外に多いです。
でも、誕生日おめでとう!であれば、個人情報云々持ち出して抵抗する人も少ないです。
誕生日の声がけさえ拒否する人は、もうどうこうするのはあきらめてください。
管理職にはそういう割り切りも必要です・・・
「今日は寒いですね」だけでもOKです。
とにかく一言でも会話してください。できれば部下全員と。
私はデスクに小さなメモを掲示しています。
そのメモには
と書かれていて、この言葉を常に意識しています。
これは「部下の気持ち」を表した言葉です。
部下とのコミュニケーションは人間関係をつくるのには当たり前のことですが、管理職もなかなか忙しい。
仕事上の会話はたくさんしていますが、仕事の状況によっては、特定の部下とは毎日会話しても、しばらくまったく会話していない部下もでてきます。
上司はそんなことあまり気にしませんが、部下はどうでしょう?
「ああ、今日は上司と目も合わなかったな。1週間は口聞いてないかも?」
なんて考えながら帰宅しているかもしれません。
だから、意識して毎日自分に言い聞かせないと、部下とのコミュニケーションってなかなか難しいのです。
コミュニケーションが無くても仕事を楽しむことはできますが、もっと楽しむためには、やはりコミュニケーションが重要です。
欧米企業では、たったこれだけのことで、上司とも遠慮なく話し合える「空気」がありました。
欧米では、年齢や役職に関係なくニックネームなのですが、日本では年長者や上司に対してはちょっと難しいでしょう。
名前やニックネームで呼ぶ効果は、部下の気持ちを変えるだけではなく、あなた自身のためにオススメです。
呼ばれた部下は最初は多少困惑するかもしれませんが、すぐ慣れます。
呼ぶ方、つまりあなたにとっては、部下との距離を自分から少し縮める効果があります。
「高橋君ちょっと」と呼ぶと、呼ばれる部下は「何事か?」と多少警戒します。お互いにちょっとした緊張感が生まれます。
「ケンちゃんちょっと」なら、呼ばれる方も少しは警戒心がやわらぎます。だから呼ぶ方もすこしやさしい心で接することができ、緊張感を緩和できるでしょう。
説教するために呼びつけたとしても、「高橋君ちょっと」よりも「ケンちゃんちょっと」の方が、多少はやさしく説教できるのでは?
まあこれは気持ちの問題ではありますが、あなたにもぜひ試してもらいたいです。
これは「仕事がおもしろい!」と少しでも感じてもらうのが目的です。
仕事がつまらないと感じる大きな理由のひとつは、その仕事の目的がわからないからです。
仕事の目的をわかってもらうのに、決算や経営戦略とはちょっと大きすぎる話かもしれません。
でも、みんなの小さな仕事のひとつひとつは、決算の数字や経営戦略につながっている・・・
いや、つながってないこともありますね。
そんなきれいごとでは説明できない仕事がたくさんあるのが会社ってもんです。
本当にムダな仕事、上司のきまぐれだけでやらされている仕事、そんな救いようのない仕事もたくさんあるのが会社ってもんです。
でもきれいごとで説明できるはずのに、部下がそれに気づいてない仕事もあるはずです。
決算や経営戦略は、社員全員でしっかりと共有し、自分の仕事としっかり関連づけることは必須です。
管理職であるあなたは、最低限の役割として、会社の経営や方向性について、すべての部下と共有しなければなりません。
そして、部下の抱えている仕事のひとつひとつについて、会社へ貢献していること、していないことに分類してあげてください。
会社へ貢献している仕事は、経営といかにつながっているのか、多少誇張してもよいので、部下にしっかりと説明してあげてください。
会社へ貢献していないムダな仕事、でもやるしかない仕事については、それでも部下自身のメリットになるように動機付けするのです。
私の会社でも、役員のきまぐれで「なんでこんな指示するのかさっぱりわからん!」ということがたまにあります。
管理職である私ですら、困惑するような指示です。
そんな時、私は部下に
「自分がいつか偉くなったときは、こういう指示はしちゃいけない、ってことを学んだと考えよう!その授業代として、この指示を受けましょう!」
とヘリクツをこねて対応してもらっています。
そんな話を部下にすると、みんな苦笑いしながらも、一生懸命仕事をしてくれます。
優秀なビジネスパーソンである管理職なら、この程度のヘリクツ、何とでも言えるはずです。
管理職が、会社と部下の間に溝を作ってはいけませんが、たまにはこういう理不尽さを共有することでも、チームワークは生まれ、楽しい職場になってくるのです。
私も当然ながら「お客様第一主義」です。
ところが、実際の現場においては、意思決定するときにお客様のことを考えていないケースもあります。
仕事の目的が「上司の承認を取ること」「上司に怒られないこと」になったりします。
そんなことばかりしていたら、自分がいったい何のために仕事をしているのか、わからなくなります。
そして最後は「お金のため」と割り切って、もう不満すら感じなくなっていくのです。
そうなったら「社畜」に向かって一直線です。
管理職は動物を育てているのではなく、ビジネスパーソンを育てているのです。
部下が悩んでいるときは、いきなり答えを出すよりも、まずは問いかけ、自分で考えてもらいましょう。
でも、
「あなたはどうすればいいと思う?」
と問いかけたら、部下は、上司の顔色、めんどくささ、など、余計なことを考えて悩み始めます。
このように問いかけましょう。
「お客様のためならどっちがいいと思う?」
よほどひねくれた人じゃない限り、会社で働いていて、お客様なんかどうでもいい、と考える人はいません。
「お客様のためならどっちがいいと思う?」と問いかければ、部下は社畜としてではなく、ビジネスパーソンとしての思考回路が動き出します。
部下は自分の仕事や意思決定がお客様の喜びにつながることを実感できます。
こういう問いかけを日々繰り返していくことで、仕事に楽しさを感じ、結果的にビジネスパーソンとして成長し、気が付けば、自分が部下を持ち、同じことを部下に問いかけているのです。
「部下に仕事を楽しんでもらいたい」
この管理職の永遠のテーマについて、私なりに実践していることを紹介させていただきました。
もちろん、このテーマに正解はありません。結果もすぐには見えません。
でも、このように自分なりに考えて、実践していくことが、「あなたのマネジメントスタイル」そのものであり、あなたの「働き方」となっていくのです。