今回の記事では、管理職のバイブルと呼ばれている『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』を参照しながら、「仕事の優先順位」について解説していきます。
40年近く前に書かれたビジネス書ですが、その内容や考え方は働き方がどのように変わっても大切なことばかりです。 新型コロナウイルスによって在宅勤務が注目を浴びていますが、むしろリモートワークの時代にこそ、この本に書かれているマネジメントの「本質」が重要になってくることは間違いありません。
どんな仕事にも、手順や流れといったものがあります。
たとえば会議を開催する場合。
議題や出席者を決めたり、会議室や出席者の予定を確保したり、説明資料を準備したり・・・とやることはたくさんあり、それを順番にひとつひとつ片付けていきます。
『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』では、レストランでのモーニングセットの作り方(トースト、ゆで卵、コーヒー)を事例に、仕事の優先順位付けを解説しています。
どんな仕事でも、流れはモーニングセットと変わりません。
モーニングセットを作ろうと思うと、たくさんやることがあります。
・卵を手に取る
・卵をゆでる
・パンをトースターで焼く
・コーヒーをカップにそそぐ
・出来上がったモノをトレイに乗せる
これらの作業は、お客様が許してくれる範囲でなるべく急いで、しかも出来上がったものは安くおいしくなければいけません。
どんな順番で、何から手をつければ一番よいのでしょうか?
その答えはかんたんです。
「最もやっかいなこと」「最もめんどくさいこと」を最初にやってしまいましょう!
これだけのことです。
「最も時間がかかること」を中心に、全体の計画を組み立てるのです。
モーニングセットの例で言えば、「最も時間がかかること」は「卵をゆでる」ことです。この卵をゆでる時間を中心に、いつパンをトースターに放り込むのか、いつコーヒーをカップにそそぐのか、を組み立てていくわけですね。
そして、作業の順番を決めるときには、「最も時間がかかること」と他の作業がピタっと同じタイミングで完了するように、順番を組んでいきます。
卵がゆであがったタイミングで、トーストとコーヒーも同時に完成させるのです。
ちょっと意味がわかりづらいかもしれませんが、効率よく仕事をこなしている人は必ずと言っていいほどこのやり方なんです。
絵にするとこんなイメージです。
仮に、卵をゆでるのに3分、パンを焼くのに1分、コーヒーをそそぐのに10秒としましょう。
であれば、まず最初にやるべきことは、卵を手にとってゆで始めること。
卵を鍋に放り込んだら、次はパンを焼く、それからコーヒーを入れます。
そうすれば、ゆで卵、トースト、コーヒーがほぼ同時に完成できますので、後はトレイに乗せて、お客様に運ぶだけです。
お客様は、ゆでたての卵、焼き立てのトースト、入れたてのコーヒーが楽しめるのです。
非常に簡単で当たり前の話ですが、今の製造業における基本プロセスは、このモーニングセットの作り方と同じです。
事務仕事にも応用できます。たとえば出張報告書を上司に提出する場合。
出張から帰ったとたんに上司から、
おい、報告書早く出せよ!遊びに行かせたわけじゃないぞ!
なんて嫌味が飛んでくることもありますよね。
ムカっとする言葉ではありますが、これはお客様のニーズだと考えましょう笑
出張報告書を書くときに一番大変なこと、時間がかかることは何か?
それは、実際に出張に行って仕事をすることですね。それは報告書の中身そのものです。
日帰り出張であれば書く内容も大したことないので、すぐに書けますが、数日レベルの出張であれば内容も盛りだくさんになり、すぐには書けませんね。
でもお客様(嫌味な上司)は、せっかちです。すぐに報告書を求めてきます。
どうすればいいか?
出張に行く前に、出張報告書をあらかた作っておけばよいのです。
こうすれば、出張から帰ってくるタイミングで出張報告書の提出ができます。
自分も楽ができる上に成果も出しやすくなります。上司に嫌味を言われることもありません。
詳しくはこちらの記事に書いてありますので参考にどうぞ。
「出張」ってどう思いますか?仕事が大変そう?なんか楽しそう?Yesでもあり、Noでもありますね。でもせっかく遠くに行くのであれば、楽しまなきゃ損です。
このように、モーニングセットの事例は、何にでもこじつけられますし、その「こじつける発想力」こそ、管理職には求められるのではないかと私は考えています。
頭では理解できるけど・・・実際やるのはむずかしそう・・・
いえいえ、誰でもできますよ笑
ていうかあなたも普段やってることですから
晩御飯を作るときは、何時頃に食べるかをまず考えますね。
カレーだったとしたら、一番時間がかかるのは煮込むことです。
煮込む時間が30分なら、食べる時間の30分前には煮込み始めれるよう、あらかじめ具材を準備しますよね。
一番時間がかかることを中心に仕事を組み立てているのです。
仕事だって同じです。
3日後に提出する資料を作るとします。その資料に必要な情報は他部門からもらわないといけない。もらうのに2日はかかりそう。そんなときは、まずは急いで他部門に情報提供の依頼をしますよね。
これも、一番時間がかかることを中心に仕事を組み立てているのです。
これらは誰でも当たり前に考えてやってることです。
ただ、カレーを煮込むのも、情報提供の依頼をするのも、あなたが苦労することではありません。
ではあなたにとって「めんどくさいこと」だったらどうでしょう?サッサと手をつけられますか?
感情に負けて、後回しにするかもしれませんね。
ここが仕事ができる人とできない人の境界線
以前大ヒットした『カエルを食べてしまえ!』という本があります。カエルなんて誰も食べたくないですよね。でも、まずカエルを食べることが大事なんだ、と言っているのです。
「めんどくさいこと」からやってしまうのが、結局一番確実で早いのです。
まずはそれを頭で理解することが実践の第一歩です。
最初は意識して、めんどくさいことからやっていくうちに、それが一番効率よく仕事がこなせるということを体が覚えてきます。そうなれば、無意識に効率よく成果が出せるようになります。
人間ってそういう生き物なんですよ
ただし現実の仕事はもっと複雑です。
モーニングセットの例で言えば、たとえば、
・トースターがいきなり壊れた
・パンにカビが生えていた
・お客様がいきなりたくさんやってきた
といった不測の事態が日々発生します。
何も起こらなければベストであったモーニングセットの作り方でも、不測の事態が発生したり、外部的な要因で変化が起こったときには、もはやベストの作り方ではなくなるのです!
このような場合、管理職は他のベストなやり方を考えなければなりません。すぐに、です。
パンから作った方がいいのか、いやいやコーヒーを先に・・・
そんなことを考え、即実行しなければなりません。
『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』で著者アンディ・グローブはこのように断言しています。
こういった状況には必ず正しい答え、つまり、可能な限り最低の費用で最善の引き渡し時間と製品の質が得られる答えがあることを忘れてはならない。
代案を考えるためには、何を犠牲にして何を得るか、というトレードオフ(損得勘定)をしなければなりません。
そのために管理職は、食材の在庫、トースターやコーヒーメーカーの性能、人の作業時間などが、普段どういう状態にあり、それぞれがどういう関係にあるかを理解する、あるいは理解しようとする努力をしなければならないのです。
もうひとつ大切なことがあります。
モーニングセットが作られていく過程で、ただの生卵はゆで卵に変わり、最後はかわいい食器にきれいに盛り付けられて、お客様に提供されます。
ただの生卵よりも、きれいに盛り付けられたゆで卵の方が、お客様にとっては魅力的ですね。
つまり、過程を経るごとに卵の「価値」があがっているのです。
ではもし、仕入れた生卵が腐っていたとしたら何が起こるでしょうか?
そして、それがゆで卵となってお客様の口に入ってしまったら??
取返しのつかない大事故ですね。
アンディは言います。
できるかぎり、”価値が最低”の段階で問題を発見して解決すべきだ。
つまり、生卵を仕入れたときにまず検査して、腐った生卵をその場で仕入れ先に返却すべきなのです。
一番価値が低い状態である生卵を、不良品として返却すればお金は戻ってきますし、レストランにとって大きな損はありません。
でも一番価値が高い状態であるゆで卵を、お客様が食べてしまったら・・・そして体を悪くしてしまったら・・・レストランが払う代償はきわめて大きなものになるのです。
ここではモーニングセットという「モノ」を事例に話していますが、この「モノ」は何も工業製品や食品ではなく、何にでも置き換えることができますね。