前回の記事では、1990年代後半から2015年頃まで、SDGsが採択される以前の企業の環境問題や社会問題に対する取り組みについてお話しました。
CSR(企業の社会的責任)とは? 企業に勤めた経験のない方には聞きなれない言葉かもしれません。 SDGsは世界各国が目指すべき世界共通の目標であり、国家レベルでの目標です。 CSRはそういった国家レベルの目標達成に向けて、企業が独自に定めた行動指針のようなものです。
今回の記事では、2015年に採択されたSDGsに対する企業の取り組み状況についてお話します。
企業はSDGsへの対応をどのように進めているのか?
企業はSDGsについてどのように考えているのか?
企業のSDGsに対する取り組みにはどんな課題があるのか?
うちの会社のCSR部門から少しアドバイスをもらいました
SDGsのような国連で採択された世界レベルでの大きな目標は、さすがに日本の大企業から見ても規模が大きすぎて、漠然とした感じがします。
目標を聞いただけでは、なかなか手が動かせないって感じますね。
うん目標はわかったけど・・・で、どうすればいいの?
一方、国連からすると、大きな目標を打ち出してみたとはいえ、それが実際に企業や個人の具体的なアクションにつながるかと言えば、そこまでは難しいと考えているはずです。
笛吹けど踊らず、みたいな・・・。
とはいえ、大きな目標ですから、個人だけではなく企業の積極的なアクションが無くては、こんな大きな目標の達成は不可能です。
目標出してみたけど、どうやって企業を動かすか・・・
国連と、企業・個人の間に存在するのは各国政府です。
でも政府がいちいち企業や個人それぞれに丁寧なアドバイスをするのは、現実的ではありません。
他国や関係省庁、自治体との連携は任せて!でも企業の面倒までは・・・
そこで国連の大きな目標と企業をつなぐ重要な役割を持った組織が生まれました。
その組織こそが、
国連グローバル・コンパクト(UNGC)
なのです。
企業のSDGs活動をサポートする組織!
各企業におけるSGDsへの取り組みに対し、中心的な役割を担っている組織。
それが、
国連グローバル・コンパクト(UNGC:UN Global Compact)
その日本支部が、
グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ:Global Compact Network Japan)
UNGCは、SDGsだけではなく、国連の掲げる様々な目標達成に向けて推進している世界的な組織で、その日本組織であるGCNJでは、参加している日本企業に対してそれらの具体的な進め方についてアドバイスやサポートをしています。
国連グローバル・コンパクト(UNGC)
”グローバル・コンパクト”とは、国家を超えた国連と企業の “約束事” 、という意味です。
UNGCは2000年に発足した国連傘下の組織で、様々な国連諸機関や各国政府と連携しながら、企業や団体に対して持続可能な成長(サステナビリティ)を実現するための取り組みを働きかけています。
UNGCには、10の原則というものがあり、参加している企業や団体はこの原則に賛同し、その実現に向けて取り組んでいます。
この記事においては、わかりやすく説明するために、UNGCを ”組織” と紹介していますが、もっと正確に言えば、この10の原則に署名(参加表明)した企業の集合体というか、ネットワークのことであり、UNGCはその事務局のような存在です。
2015年時点では、世界約160カ国で1万3000を超える団体(そのうち企業が約8,300)が加盟(つまり署名)しています。
グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)
グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)は、UNGCの日本支部にあたります。
>>グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ) HPはこちら
2019年6月時点で、日本国内で319の企業・団体が加入しています。
みなさんご存知の多くの大企業や団体も加入しています。
(このページに企業ロゴが並んでいますが、なんとこのロゴは各社のCSR関連ページへのリンクとなっています。気になる企業があれば、ぜひチェックしてみてください!)
具体的にGCNJが何をやっているのかざっくりとまとめてみました。
● 加入企業・団体向けのセミナー、意見交換会、イベントの開催
● CSRやSDGsを企業で推進するためのガイドラインや業務マニュアルの提供
● 東日本大震災からの復興に向けた会員企業・団体によるボランティア派遣推進
● 海外のUNGC組織との合同シンポジウム開催 など
CSRに積極的に取り組んでいる日本企業の多くはUNGCに加盟しており、UNGCのサポートやネットワーク活用によって、SDGsの目標達成に向けて取り組んでいます。
企業にとってのSDGsの教科書、SDG Compassも発行しています。
SDG Compassでは、企業活動にとってSDGsがどのような影響をもらたすのか、どのように企業戦略に織り込んでいくのか、が徹底的に解説されています。
また、ホームページにおいても、各企業のSDGs活動を紹介したり、様々なデータを提供しています。
ここまでのお話を図にしてみました。
企業はSDGsのこと知ってる?何やってるの?
2015年に国連で採択されたSDGsですが、2016年の実施からすでに4年目を迎えました。
多くの企業が環境問題や社会問題に長年取り組んできており、SDGsという言葉もメディアでよく目にするようになってきましたが、積極的なアクションはまだまだ一部の企業に限られており、また従業員の意識も低い状態にあります。
企業のSDGsに対する認知度
私の勤務する会社は、UNGCに参加(署名)していて、世間ではSDGsに向けた取り組みが盛んである、と評価されている企業のひとつです。
世界的に有名なESGインデックスにも選定されています。簡単に言えば、
「この会社は持続性のあるCSRに積極的に取り組んでるよ!将来有望だから株を買うのにおススメだよ!」
と紹介されているということです。
ところが・・・なんですよ。
先日、私の職場20名全員で年に一度のCSR研修というものを受けました。うち会社のCSR部門が作成した教育資料を使って、各職場で勉強会を実施するというものです。
当然ながら、SDGsについても触れられています。
とはいえ、その内容は「ちなみに国連でもこんな目標があるんですよ」程度の紹介であり、具体的な企業活動との結びつきにはまったく触れられていませんでした。
職場のみんなに「ところでみんなSDGsって知ってる?」と聞いたのですが、何人かが「聞いたことはありますが・・・」程度の反応で、大半はポカーンとしてました。
勉強会の司会をしていた私の職場のCSR推進担当者ですら、
「カラフルでエコっすね!」
という程度の認識・・・
うちの会社だけこんな状況なのかと思ったら、意外にそうでもないんですよ。
2018年にGCNJが参加企業に「SDGsの社内認知度」についてアンケートを取ったところ、こんな結果となりました。
CSR担当者に定着している 84% 経営陣に定着している 59% 中間管理職に定着している 18% 従業員にも定着している 17% 関連会社にも定着している 4% わからない 3% GCNJ/IGES 2018年度版「主流化に向かうSDGsとビジネス~日本における企業・団体の取組み現場から~」参照
経営陣(役員クラス)でも6割程度、中間管理職は5人に1人くらいしかSDGsの事をよくわかってないのです。
このアンケートは、GCNJに参加している企業によるものです。つまり、世の中の数ある企業の中では、SDGsに対する意識が高い企業ばかりのはず。それなのにこの程度なのが実態なのです。
私の職場のみんながポカーンとするのも理解できます。
同じく2018年、関東経済産業局が中小企業の経営者490人に、SDGsの認知度についてのアンケートを取りました。
SDGsについて全く知らない
(今回の調査で初めて聞いた)84% SDGsという言葉は知っているが
内容は知らない8% SDGsの内容は知っているが
アクションは検討していない6% SDGsについて対応
アクションを検討している1% SDGsについて既に対応
アクションを行っている1% 関東経済産業局 2018年「中小企業のSDGs認知度・実態等調査」参照
なんと、84%もの中小企業の社長さんが、SDGsという言葉さえ知らなかったのです。大昔のことではなく、つい昨年のことですよ!
この認知度の低さ・・・一体どういうことなのでしょうか??
企業によるSDGsの進め方
企業によるSDGsの進め方には5つのステップがあります。
【ステップ1】 SDGsを理解する
まずはここから!
【ステップ2】 優先課題を決定する
SDGs17の目標のどれに優先的に取り組むかを決定!
【ステップ3】 目標を設定する
自分の会社の事業目標とSDGs目標を両立させる!
【ステップ4】 経営へ統合する
目標達成のための企業活動を各部門で具体化する!
【ステップ5】 報告とコミュニケーションを行う
ちゃんと世間に活動内容を公表して意見を聞く!
こんなステップで進めていくのですが、実はGCNJに加盟している意識高い系の企業の大半ですら、現時点ではステップ1~2をやってる状況で、ぼちぼちステップ3かな、って感じなんです。
会社の中でどんなステップで進むかを想像するとこんな感じですかね。
社長が「SDGs!うちもやるぞ!」って言いだす
社長の命令で、CSR部門がSDGsの勉強を開始
役員とか経営企画部門あたりが一緒になって、わが社の企業活動だとどの目標に貢献できるか考える
開発や営業といった各部門に対して、それぞれの部門における目標設定の指示をする
目標ができたら、今度は具体的な活動計画を各部門に考えさせる
目標と計画が揃ったら、役員や経営企画部門でチェックして、OKなら世間に公表
そんな流れが想定される中で、うちの会社でなぜSDGsの認知度が低いのか、ちょっと考えてみました。
うちはずいぶん前からCSR活動をやっていたので、各部門の事業目標や仕事そのものが、環境問題や社会問題への貢献と結びついていて、それは従業員全員、すでに理解しています。
職場で出るゴミをちゃんと分別しましょう!
環境にやさしい製品を開発しましょう!
女性や障がい者に平等に働いてもらいましょう!
とか、当たり前に理解し、ずっとやってきています。
そこにSDGsという目標が後から登場しました。
CSR部門は、SDGs17の目標を見て「ああ、うちはすでにやってることだね」と、これまでやってきた自社のCSR活動に、ペタペタとSDGs17の目標を貼り付けました。
企業名が特定できないように加工してますが、こんな感じです。
(この企業の取り組みを批判してる訳じゃないですよ!あくまで目標貼り付けのサンプルとしてわかりやすいから拝借しているだけ。この企業はすばらしいCSR活動を行っています!)
それを、サステナビリティレポートとして世間に公表。以上、完了!
そんな感じかな。
つまり、従業員としては、SDGs目標のことを細かく知らなくても、目の前の仕事をこれまで通りにちゃんとやっていれば、結果的にSDGsの目標達成に貢献している、ということなのです。
中間管理職や一般社員なんかは、CSR研修とかで、SDGsのことをサラっと説明を受けて、サラっと理解して、それですんなりと納得しているのです。
これまで通りに仕事してればそれでいいってことね
うーーーん・・・たしかにそうだけど・・・それでいいのか?本当にいいのか??
企業のSDGs取り組みにおける問題点
昔々、企業はお金儲けに走りました。
その結果として、世の中は不幸になり、そんな企業自身も大変なことになりました。
それじゃダメだと、企業は環境問題や社会問題に取り組むようになりました。
でも最初の頃は、お金儲けをするために ”しかたなく” やってました。
やっとかないと世間に顔向けできないからです。
世の中は大きく変化していき、”しかたなく” やっていては、環境変化についていけない、いつまでもお金儲けが続けられないことに気づきはじめました。
企業は、自らの企業活動(食品を作る、車を作る、服を売るなど)と、環境問題や社会問題を解決する方法を、関連づける努力をしました。
お金儲けしながら、世の中をよくするためにはどうするべきか?を考えました。
生き残るために、です。
自社が生き残ることも、世の中のためだからです。つぶれてしまっては世の中に悪影響を与えます。
一部の志の高い企業は、いち早くそのような動きを始め、企業活動と社会問題への取り組みを両立することに成功しました。
だからSDGsの目標も、すんなりと理解できました。
すでにやってることと変わらないからです。
すんなりと理解できてしまったら、それ以上深く考えようとはしませんよね。
しかもSDGsの目標達成期限は2030年。
まだ10年以上も先のことなのです。
環境変化の激しいビジネスの現場で、10年以上も先の目標をきっちり数字で定めるのは、大企業とはいえなかなか難しいことです。
企業活動におけるSDGs達成度をはかる基準もあいまいです。
その辺の基準や判断は各企業任せになっているように感じます。
これも企業が2030年に向けて明確な目標が立てづらい要因のひとつかもしれません。
そんな状態では、現場の中間管理職や一般職レベルにまで話が伝わってこないのも仕方ない。
一方、多くの中小企業では、まずはお金儲けをしなければ生き残れないと一生懸命企業活動を頑張っています。
環境問題や社会問題は理解し、できる範囲で取り組んではいますが、SDGsなんて大きな話はまだまだ遠い世界のことなのです。
すばらしい取り組みをしている会社の紹介
SDGsの目標達成に向けて、国連も政府も企業も本格的に力を入れています。
でも企業にはまだまだ課題があります。
● 大企業の中間管理職や一般社員にまでSDGsの取り組みが浸透していない
● 中小企業のSDGsに対する認識がまだ不足している
● SDGs目標達成に向けた各企業の具体的目標があいまいになっている
SDGsの推進に大きな役割を果たしているUNGCやGCNJといったネットワークも、これらの課題を認識し、対応を進めています。
SDGsの目標は、従来の国連目標や企業のCSR活動の目標と、基本的には大きく変わるものではありません。
ただ、国家単位ではなく、ひとりひとりの人間に焦点が当てられ、「誰ひとり取り残さない」という考え方は、従来と大きく違う点であると感じています。
この「誰ひとり取り残さない」という考え方は、SDGsの恩恵を受けるべき人々だけはなく、SDGsの目標に取り組む企業の従業員ひとりひとりも含まれるべきです。
様々な価値観をや人生経験を持つ全従業員ひとりひとりの英知を結集しなければ、企業のSDGsに対する取り組みは、従来のCSRの延長線上から抜け出せません。
SDGsはたかが10年ちょっと先の目標です。
世界はその先もまだまだ続いていくのです。
企業はSDGsをきっかけとし、今変わらなければ、SDGsの目標達成はおろか、2030年以降の世界につながっていかないのです。
ここで、すばらしい取り組みをしている企業を紹介します。
住友化学株式会社という大手総合化学メーカーです。
サステナブルツリーという社内Webサイトを立ち上げ、従業員ひとりひとりが自分が何をすべきか考え、投稿して全社員で共有する仕組みです。
SDGsの社内教育用にマンガまで作成しています。
本気で従業員全員にSDGsを理解してもらおうと思えば、このくらいのことをやらないといけませんね。
総合化学メーカーは、10年20年先の未来を考えて材料の基礎研究を行っていますので、しっかりと未来を見据えていますね。さすがです。
あなたの会社や職場では、SDGsに対する認識はどうでしょうか?