少し前の話になりますが、我が社の社長はいわゆるワンマン経営者でした。

大企業のトップなのでメディアのインタビューを受けることも多く、そのワンマンぶりは業界ではそこそこ有名で、有識者のブログやSNSでも少々話題になっていたほどです。

(最近はビッグモーターの経営者が話題になっていますが、あそこまでひどくはないです。うちはガバナンスが効いていて、しっかりしたグローバル企業なので。)

そんな社長の思い出と、いなくなった後に社内がどうなったか、というお話です。

ワンマン社長のエピソード

この社長に何か報告する会議があるときは、その説明資料を準備する部門はさながら戦場のようでした。

少しでも不備があったりわかりづらい部分があると、ものすごく怒られるからです。誤字脱字なんてもってのほかです。

この社長が絡んでくる話があれば、特に役員のみなさんは戦々恐々とし、常にピリピリした空気が漂っていました。

役員のみなさんがやりとりしているチェーンメールが私に転送されることもよくあったのですが、メールの文章でも社長のことを「〇〇社長が」とか「〇〇さんが」とか表現する人はいなくて、「SK(社長のイニシャル)が」とか表現されてましたね。

みんなが毛嫌いしている、というより、めんどくさがっている、という印象です。

 

私はさほど接することはありませんでしたが、この社長が役員なり立ての頃、私が課長時代に2回ほど怒られたことがあります。

初めて怒られたのは、私がとあるビジネス戦略のプレゼをしていたとき。

私が内容を順番に説明しているにも関わらず、手元に配布してある資料にササっと先に目を通して、だいぶ先の部分を取り上げて「なんでここはこうなっているんだ?」と質問されました。

私は「そこは順番に説明しますので、まずは話を聞いてもらえますか?」と答えたのですが、それがマズかった笑

「もういい、出ていけ!」とブチ切れ・・・

隣に座っていた上司をチラっと見ると、小さくうなずいていましたので、私はおとなしく退室しました。後は上司がうまく説明してくれたので助かりましたが。

 

2回目に怒られたのは、同じく私がプレゼをしていたとき。この社長は当時専務になっていました。

私が一生懸命説明しているのに、ずーっとスマホをいじっていて、まったく話を聞いてない様子。まあそれでも聞いてはいるんだろうな、と思いつつ、凍てついた会議室で説明を続けました。

一通り説明が終わって、私が一呼吸したとき。

「話は終わったのか?」と相変わらずスマホをいじりながら一言。

「はい、終わりました」と答えると・・・

「お前はA社(ライバル会社)の営業マンか?」と一言残して会議室をさっさと出ていきました。

それでもこの社長はすごかった

「お前はA社(ライバル会社)の営業マンか?」

この一言だけで、私は彼の言いたいことがすべて理解できました。

確かに私の提案では、ライバル会社に有利に働き、自社の利益を失うリスクが含まれていたのです。当時の私はそこまで深く検討ができていなかった・・・

スマホしながら話半分で聞きつつも的確に弱点を見抜き、たった一言でそこを部下に理解させる・・・私は怒られたことよりも「なるほど、うまいこと言うな」と正直感心しました。

 

ここまでのエピソードでは、「ワンマン社長」というより「ただの暴君キャラ社長」という印象かもしれませんが、ワンマンならではの大きな意思決定も数々実行しています。

具体的な内容には触れられませんが、世界中のメディアから注目賞賛されているような取り組みも、彼の意思決定によって実行されました。

また、私の会社は社外の方から「御社は大企業にも関わらず社員みんなが企業理念を腹に落としこんでいて、誰と話をしても同じビジョンを熱く語ってくれる」とお褒めの言葉を頂きます。

これはワンマン社長の強い発言力とリーダーシップによるものだと、私は思っていますし、その企業文化は今でも健在です。

一方で失敗した取り組みも多く、この社長がいなくなった後でも、会社の収益や戦略に少なからず悪影響を与えており、その後始末に日々翻弄しています。

ワンマン社長がいなくなった後・・・

数々の功績と失敗を生んだこの社長ですが、ついに交代することになりました。いきなりの辞任です。

みんなびっくりしました。

独断が過ぎたためステークホルダーとの間にいろいろと大きな問題が発生した・・・という噂もありますが、この急な辞任の真相はわかりません。

今は全然違う仕事をされていますが、その後もお元気そうなご様子なので、健康やご家族のことが原因ではなさそうです。

 

後任の社長は人柄もよく、コミュニケーションが上手なキャラで有名でした。正反対といってもいいキャラです。

ワンマン社長の後によくある話ですが、新社長は「チーム経営」を方針として打ち出しました。

強いトップに従ってきた企業文化を、副社長、専務クラスでの対話による意思決定にスタイルを変えていこう、と言うのです。

社内には安堵のような空気が流れました。ピリピリした空気から解放されるかな、という期待感もありました。

 

ところが、この「チーム経営」によって、会社のスピード感が大きく失われてしまいました。

とにかく物事が決まらない。時間がかかる。

 

昔だったら、ワンマン社長の鶴の一声で決まっていたことも、各部門の役員間であーでもない、こーでもない、と延々と議論が続き、すべてのプロジェクトが従来よりも時間がかかるようになってしまいました。

これまではワンマン社長を「共通の敵」みたいに位置づけて、役員や各部門も一体感があったのですが、今ではギクシャクしています。

世界中のライバル会社が次から次へと新しい手を打ってくる中で、うちは方向性が明確に打ち出せておらず、メディアや投資家から批判の声も出ています。

環境変化が目まぐるしく、またITやソフトウェアの進化は劇的に加速している世の中で、今までと同じスピードですら危ういのに、さらにスピードが遅くなるという・・・

現場の社員も悶々とした日々を過ごしており、会社の未来に不安を感じている人も多くいます。

確かに社内の空気は少し和らいだ感じがしますが、それと引き換えにスピードを失ってしまっては、会社としてはマイナスです。

 

とまあそんな感じで、今もいろんな取り組みで各部門で延々と話をしているのですが、この混乱状況を収束させるにあたって、ひとりの若手役員が頭角を現しつつあります。

私の先輩で、若いころからよく知っている人です。

その人は完全に暴君キャラです笑

会社って、ワンマン経営⇒チーム経営⇒ワンマン経営・・・を繰り返すものなのかもしれません。