いきなり役員に呼ばれて相談を受けました。

「○○部の状態があまりよくないんだよ・・・」

話を聞いてみると、そこそこ仕事の成果は出ているらしいのですが、職場に元気がなく、老若男女問わずにメンタルで倒れる人が後を絶たないらしいのです。

「ちょっと君の目で、状況を見てもらえないか?」

私は頼まれると断れない性格。しかも相手は役員で親しい先輩です。

ちょうどそこの部門長や管理職連中と、仕事のプロセスや組織体制を見直す相談もしているところだったので、私なりにサポートできることがないか、ちょっと深入りしてみることにしました。

その部門の若手管理職の中には、私の元部下も数名いましたので、まずは彼らにヒアリングをしてみました。

私自身、この部門の人たちと仕事をしていて、いろいろと不安や疑問を感じていることがあったのですが、元部下の話を聞いて、何が起こっているのかおおよそ理解できました。

仕事の成果と引き換えに人心を失った職場

一言で言うならば、この部門は普通に仕事量が多すぎてパンクしていました。

なぜそんな状況になったかと言えば、理由はいろいろあります。

 

まずはここの部門長の問題。

彼のことは私もよく知っていますが、頭の回転が早く間違いなく優秀なビジネスマンです。

いつも元気ハツラツで、温厚で部下を怒鳴りつけたりすることもなく、絵に書いたようなエリートって感じです。

ただ・・・仕事に対する理想が非常に高いのです。

「これは理想実現のためにやるべきことだ」を繰り返し、彼が部門長になってからは、新しい仕事が雪だるま式に増えていきました。

もちろん、彼は有能ですから、「なぜこの仕事をやるべきなのか」「それをどうやって実行していくのか」非常に丁寧な説明を、部下である中間管理職に日々説いていました。

自らパワポ資料を作って説明し、管理職がそれを受けて一般社員に自ら展開するという形をとっていました。

上からの指示ではなく、管理職自らが理想と実行手段を理解した上で、部門内に展開しようとしたのです。

このやり方は間違っていないと思います。

でも・・・実際は、彼が作ったパワポ資料は、管理職から一般社員に丁寧に説明されることなく、ただメールで転送されて終わっていました。

ひどい管理職は「俺はまだ理解してないけどとりあえず転送します」と一言付け加えてメールを送るだけという・・・

一般社員からすると、訳のわからない資料が転送されてきただけで、書いてある言葉は理解できても、それが行動につながることはありませんでした。

なんで右から左に垂れ流されてしまったのか。

理想像は誰が見ても間違いないものだし、誰しもが当然そうあるべきだろうと思っている内容だったのですが、「実行手段」があまりにも困難だったため、管理職が受け入れきれなかったのです。

しかも掲げている理想は絶対的に正しいため、反論することもできない・・・

「言いたいことはわかる。優秀な部門長さんならできるんでしょうよ。でも俺たち凡人にはこんなことできないよ・・・」というのが管理職の本音でした。

部門長本人は「ここまで丁寧に説明したのになんで実行できないんだ」とイライラして、ついに細かな業務指示をするようになりました。

細かな資料の作成指示まで、タイトな納期で指示するようになったのです。

資料の作成や情報収集がどのくらい大変なのか、時間がかかるのかを理解せずに、

「明日の朝イチで役員報告することにしたから。それまでに資料よろしく。資料はこうしてください。」

みたいなメールを一日に何本も発射するようになりました。

折しもコロナ対応による在宅勤務が始まった頃、このようなコミュニケーションがメールベースで日々行われることになりました。

本来、部門長からの指示を理解し、社員に対して適切に業務配分すべき管理職ですが、そんな余裕もなく、業務指示メールを部下に転送することが当たり前になりました。

細かな業務指示まで部門長が出しているので、ある程度はみんな動けます。でも納期が厳しい。

そんな状態が何ヶ月も続くうちに、部門のみんなはロボット化していきました。

とにかく指示どおりに右から左に仕事を流す、納期がタイトなので残業もする、一般社員は残業規制もあるので管理職が残業休出でカバーする・・・

そうして作った資料を部門長に見せたら、情け容赦なくダメ出しされる。

会議まで後10分しかない・・・どうする、どうする、どうする・・・

まず一部の管理職が倒れ始めました。その次に、その部下が・・・そしてますます工数は逼迫していき、組織の崩壊が始まったのです。

一体、自分たちが何のために目の前の仕事をこなしているのか、ここまで苦労しているのか、管理職含めて全員が見失ってしまったのです。

でも、優秀な部門長が事細かに業務指示を出しているため、部門としての成果はあがっていきました。

みんなの心と引き換えに。

 

私もこの部門の人たちって何かおかしいなと以前から感じていました。

ものすごく依存心が強いのです。

会議で一言でもコメントしようものなら、「じゃあこの仕事は青葉さんがやってくれるんですよね」みたいになって、関係するメールをすべて転送してきたり、会議に出なくなったり・・・

なんて無責任な集団だ、と思っていたのですが、結局みんなパンク状態だったのです。

みんなの心を取り戻すために

この部門の空気を変えるために、一番最初に手をつけなければならないのは、この部門本来の役割を再定義し、業務の選択と集中を行うことだと思いました。

部内のコミュニケーションをよくしよう!とか、仕事を自分ごと化しよう!とか、そんな美しいスローガンではどうこうならないほど重症です。

物理的に仕事を減らすという外科手術が必要なところまできている、と私は判断しました。

 

部門長が掲げる理想や部門の役割は誰が聞いても正論であり、みんな頭では理解していました。

でも、あまりにも忙しくて、時間がなくて、その正論を腹に落とし、実現手段を思考するための余裕すらない毎日なのです。

理想モンスターと化した部門長の業務指示に従うだけで精一杯。業務の効率化や改善を検討する時間すらないのです。

高い理想を掲げて、みんなで頑張る組織は素晴らしいと思いますが、物理的な限界はあります。ほどほどにしないと人が壊れていきます。

うちのような大企業は、人に関してはそこまで身軽ではなく、壊れたら捨てて採用すればいい、とはいきません。大切に大切に時間をかけて人を育てていくのです。(それが正しいかどうかはさておき)

 

今まさに、私がコンサルタントとして入り込んで、ここの部門長や管理職と一緒になって、仕事の選択と集中をやっている最中です。

物理的に仕事を減らしただけでは終わりません。

忙しいから、部門長の無茶振りだから、とはいえ、部門長の指示を部下に垂れ流した管理職連中は有罪です。

何人かは異動させることも視野にいれ、若手の抜擢も検討しています。

少数の優秀な若手で特別タスクチームを結成し、当面は業務効率化だけに特化して取り組んでもらいます。

その結果として浮いた時間をどう使うのか?

そんなことを考える余裕が生まれたときに初めて、この疲弊した部門は再生に向けた新たな一歩を踏み出すのです。

(続編は後日、気が向いたら記事にします)