SDGs概要(外務省HPより)
企業のSDGsに向けた取り組みの現状(2019年6月時点)について、お話したいと思います。
あくまでビジネスマン視点ではありますが、これから未来に向けてSDGsの目標達成にみなさんが取り組んでいくにあたり、企業の取り組みの歴史も少し知っておいてもらいたい、という思いで記事を書いています。
今回はCSR(企業の社会的責任)の話です。
SDGs以前、企業は環境問題や社会問題にどのように取り組んできたのか?
SDGsのSにあたる”サステナビリティ”とはどういう意味なのか?
この記事の内容イメージ図
ちょっとわかりにくいですか?
記事を読み終わった後に、もう一度このイメージ図を見てくださいね。きっと理解が深まっているはずです。
新しいことを始めるためには、まずは歴史から学ぼう!
CSR(企業の社会的責任)とは?
SDGsは、環境問題や社会問題に対する世界共通の目標であり、国家レベルでの目標です。
CSRは、環境問題や社会問題に対応しながら企業活動を行うための、企業が独自に定めた行動指針です。
いずれも環境問題や社会問題への取り組みであり、SDGsの17の目標のほとんどは、企業がそれぞれの業界において、これまでも、そして今も取り組んでいる行動方針とほぼ一致しています。
CSRはCorporate Social Responsibilityの略称で、直訳すれば ”企業の社会的責任” となります。
企業の社会的責任といっても、税金払うとか、人を雇うとか、それだけのことではありません。
企業がちゃんと社会の発展に貢献し、社会と企業が無理なく自然な形で、これからもずっと共存していくために、企業が果たすべき役割のこと ⇒ サステナビリティ(持続性)
そしてその取り組みを、すべてのステークホルダー(お客様、株主、投資家、従業員、取引先など)にちゃんと説明し、いい会社だと認めてもらい、胸を張って企業活動に取り組むこと ⇒ アカウンタビリティ(説明責任)
<具体的な取り組み例>
● ボランティアなどの社会貢献
● 地球環境に配慮した技術開発(電気自動車の開発など)
● 職場環境への配慮やワークライフバランスの実現
● 法令順守(コンプライアンス)の徹底
● 企業活動の透明性維持や情報開示
サステナビリティとかアカウンタビリティとか、ちょっと難しい言葉を追記してますが、そこはいったん無視してもらってもいいです。
この記事は、小難しい言葉を覚えてもらうのが目的ではありませんので、今はそんな言葉の存在だけ、頭の片隅にとどめておいてください。
サステナビリティについては、重要ワードになりますので、後ほどまた説明します。
企業の環境問題への対応(2000年頃)
SDGsは国連で採択されたのが2015年と割と最近ですが、CSRというのはもう少し長い歴史があります。
その考え方自体は、1970年頃にアメリカで生まれていたという話もあります。
日本では「地球温暖化対策」という言葉が、今から2000年前後くらいに広まりました。
1997年、京都で地球温暖化に関する世界会議が行われてからです。
気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)っていう会議です。
この会議で合意された宣言が「京都議定書」と呼ばれています。これがヤバいやつ笑
先進国全体で、先進国の温室効果ガスの排出量を1990年比で5%減少させることが目標とされ、目標達成できなかった場合はペナルティまで課せられることになったのです。
ちなみに日本の目標は6%。
ところが、京都議定書が採択されてから、実施に向けて詳細のルールについて各国で話し合いを始めたのですが、あまりにも先進国に負担の大きい目標となっていたため、発展途上国と先進国が対立してしまいました。
アメリカは早々に離脱。日本やロシアも交渉を継続しました。
トランプ元大統領は全否定してましたね・・・
結局、京都議定書が実施(発効)されたのは2005年となりました。
つまり、2000年代前半頃に、京都議定書の存在によって、企業の取り組みが環境対応に大きくシフトせざるを得なくなったのです。
CO2削減!って言葉が流行りだし、クールビズやライトダウンといった取り組みが始まりました。
家電メーカーは「エコ」をキーワードに省エネ家電の開発やリサイクルを推進し、自動車メーカーもハイブリッド車や低燃費車をどんどん世に出し始めました。
他の業界でも同様の動きが本格的になってきました。
そして企業は ”環境報告書(サステナビリティレポート)” というものを作り、公表するようになったのです。
うちは環境対応ちゃんとやってるよ!見て見て!いい会社でしょ!地球環境に貢献してるでしょ!
実際そこまでひどくはないですが笑、まあ簡単に言えばそんな報告書です。
今じゃ当たり前のことでも、紆余曲折、試行錯誤の歴史があるんだよ!京都議定書もSDGsも同じ国際目標!これから何が起こるかな?
企業のCSRへの取り組み(2000年代半ば)
環境問題への対応で国も企業も大きく変わろうとしていた頃、企業の抱える問題は環境問題だけではありませんでした。
経済はますますグローバル化が進み貧富の格差が拡大、なりふり構わず暴走する新興国による更なる環境破壊のリスクも高まってきました。
消費者や従業員の意識も、環境や人権、労働環境に対してより敏感に。
投資家も企業の社会的活動を投資判断の材料にし始めました。お金を増やすための投資から、世の中をよくするための投資にシフトしてきたのです。
そしてインターネット普及による高度な情報化時代が到来。ライブドアや楽天のような従来と違う戦い方をする企業がどんどんマーケットに参入してきました。
2000年に入ると、私の会社でもやっとパソコン1人1台が当たり前になって、誰しもが携帯電話を持つようになりました。
そんなこんなでビジネスの現場でも、仕事のやり方や考え方が大きく変わっていったのです。
そんな急激な変化は企業活動に歪を生み、大企業においても大きな不祥事が多発しました。
自動車のリコール隠し、牛肉偽装、商社の入札不正などなど。
ライブドア事件、村上ファンド事件もこの頃でした。
企業も
このままじゃ生き残れないぞ!考え方を変えていかなければ!
となったわけです。
そして環境問題だけでなく、社会問題についても企業は本格的に対応を始めました。
環境、社会、経済の ”三方良し” を経営の軸に据え、社会の信頼を得て企業価値を向上させる方向に舵を切ったのです。
その頃から、「CSR!CSR!」と社内で騒ぐようになってきました。
従来は製品や技術を売りにしていたメーカーも、こぞって企業ブランド価値の向上に力を入れ始めました。
どんなに素晴らしい技術や製品でも、環境や社会に貢献していない企業の製品はお客様に選ばれない時代がやってきたのです。
まあ企業ブランド価値の向上ってのは、1年2年でできるものじゃないし、向上させてもそれを維持しなきゃいけないので、なかなか大変なのですが。
ちなみに2003年は「CSR元年」と呼ばれています。
いろんな大企業で、CSR推進部やCSR担当役員が生まれました。
ダイバーシティ経営、コンプライアンス、コーポレートガバナンス、グリーン調達といった言葉を頻繁に耳にするようになってきたのです。
そしてこの頃、企業が作成していた ”環境報告書” が、”サステナビリティレポート” と名前を変え始めました。(企業によって呼び方はいろいろあります)
サステナビリティとは?
ここでサステナビリティという言葉について説明します。
ここ重要ポイントです。
SDGsのSであり、直訳したら”持続可能な”という意味です。
2000年前後に、京都議定書で右往左往させられた我が国と企業ですが、この頃の環境対応というのは、国や企業にとっては悩ましいものでした。
本来懐に入るはずのお金を無理して使って対応しなければならなかったのです。
お金だけではありません。新しい技術やビジネスを開発するための人材も必要です。
そうでもしなければ、日本は国際的にメンツを失い、企業はペナルティを課せられた上に、お客様にそっぽを向かれる。
多くの企業にとっては ”やらされ感” が強かったと言えます。もうやるしかなかった。
当時、うちの会社でも環境経営研修とかやってましたが、私含めて若者はみんな爆睡してましたね笑
もちろん企業の経営者なんかは本気でやろうとしてましたが、末端の従業員にまでその精神は伝わっておらず、当時はまだやらされ感が強い取り組みだったのです。
CO2削減しよう!みたいな、世界にとって誰がみても正しい目標が世界会議で提示される。
でも、それは国や企業の利益と相反する。無理して対応せざるを得ない。
それすなわち、
そんな無理してる状態いつまでも続くわけがない = 持続可能ではない
ということなのです。
2000年頃の環境対応は、サステナビリティが弱かった、と言えます。
でも企業の大人たちはそれに気づきました。
こんなことやってたら金がなくなる~つぶれてしまう~
だから自主的に行動を開始した。無理なく社会と共存できる生き方を考え始めた。
それがCSRなのです。
CSRにおける取り組み内容自体は、100年前から企業にとって当たり前のことです。実際できてるかどうかは別として。
ただ、この2000年半ば頃のCSRにおいては、”サステナビリティ” を強く意識し始めた、というのが大きな変化点なのです。
企業利益と環境・社会への取り組みが背反していては、世界も企業も耐えられない。共存させなければ続かない。
これが “サステナビリティ” という言葉の意味するところなのです。
という訳で、2003年「CSR元年」の前後くらいから、サステナビリティというものを真剣に考え始めた企業ですが、大企業の末端の従業員や多くの中小企業にはまだまだその精神は浸透していませんでした。
目の前の仕事や経営に精一杯で、そこまで世の中を思いやる余裕はありませんでした。
そして2000年代後半から2010年代前半において、世界と日本企業はあらたな危機に直面します。
それが2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災なのです。
CSRに対する意識の目覚め(2000年代後半~2010年代前半)
2007年、アメリカのサブプライムローン問題に端を発したバブル経済崩壊により、2008年にアメリカの大手投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破綻しました。
世界的に株価は暴落、日本は急激な円高に見舞われ、輸出企業は大打撃を受け、日本の株価も暴落しました。
リーマンショックと呼ばれている世界的な経済危機です。
簡単に説明すれば、お金儲けのことだけ考えて暴走した人たちがバブル経済を引き起こし、それが破裂してしまったのです。
私の会社もかなりの打撃を受けました。
まず管理職の給与カットはカットされました。
当時私は海外の企業で役員をしていたのですが、不景気なのに賃上げを求める労働組合と衝突し、竹槍で脅されたり、石を投げられたり、会社に軟禁されたり・・・
そんな感じで、ビジネスマンも不景気の影響を受け、給与やボーナスの減額、最悪の場合はリストラといった憂き目にあったのです。
お金儲けだけに走ったら天罰が下る、とみんなが考え始めました。
言葉は知らなくとも、これまで以上に多くの人が、CSRやサステナビリティをより強く意識するようになったのです。
そしてリーマンショックの傷もまだ癒えていない2011年、東日本大震災が発生しました。
世界中の多くの人があの惨状を目の当たりにし、自分に何かできないかと一生懸命考え、多くの人がボランティアや募金など実際に行動しました。
当時海外にいた私も在留邦人から募金を集めたりしていました。
当然ながら、多くの企業も即応しました。
企業規模にもよりますが、ボランティアの派遣、物資や義援金によるサポートを行いました。
食品メーカーは食品を提供し、電機メーカーはラジオや懐中電灯を提供したり、それぞれの企業活動の中で最大限最速で貢献できることを考え、実行したのです。
大企業だけではなく、中小零細企業まで、日本のほぼすべての企業が動いたのではないでしょうか?
そこには “やらされ感” も損得勘定もなかった。
個人も企業も、ただただ被災者を助けたい、被災地を復興したいと願い、行動したのです。
そして復興支援というのは、一時のボランティアで終わるものではありません。
何年も何十年も継続して支援する必要があるのです。
そして大災害は東日本大震災にとどまりません。
日本中が地震、台風、豪雨などの災害に見舞われ続けています。
リーマンショックで儲け主義に疑問を感じた企業の人間は、東日本大震災によって決定的にサステナビリティの重要性を認識したのです。
これまでは企業経営者やCSR担当者しか考えてなかったCSR。
CSRを知っている人ですら、”やらされ感” を感じ、会社の財布を気にしながら取り組んでいたCSR。
そのCSRのあるべき姿を、多くの人々が東日本大震災を通じて目の当たりにし、実際に体験することになりました。
企業に勤めていない方に質問します。
そういった企業の動きに損得勘定を感じましたか?
感じなかったと思います。むしろ頼もしく感じられたのではないでしょうか?
遠いアフリカの貧しい子供たちに、自分の財布から募金をすることも大切です。
でもそれだけじゃなく、企業で働く人間として、自分の仕事を通じて社会により大きな、そして持続性(サステナビリティ)のある貢献がすぐにできることに目覚めたのです。
自分が工場で黙々と作っている小さな部品、会社でパソコンに向かって作っている資料、そんな何のためにやってるのかわからない自分の仕事のひとつひとつが、大きな力となり、社会に貢献できることに気づき始めたのです。
そして2015年9月、国連においてSDGsが採択されました。
MDGsについて(2000年~2015年)
SDGsの前身的な取り組みであるMDGsについて、少し触れておきます。
MDGsは、Millennium Development Goalsの略称で、直訳すれば “ミレニアム開発目標” です。
2000年に国連ミレニアムサミットで採択されたもので、日本を含むすべての国連加盟国が2015年までに世界の貧困問題を解決するために掲げられた各国共通の8つの目標 です。
MDGsの目標(外務省HPより)
このMDGsに続く世界的な開発目標がSDGsなのですが、企業のMDGsへの取り組みはそれほど盛んではありませんでした。
なぜならMDGsは、どちらかというと途上国向けの取り組みであり、先進国相手のビジネスがメインである企業なんかにとっては、企業活動との直接的な関わりが薄かったからです。
また同じタイミングで企業はCSRに注力していたので、多くの企業は、
CSRをやってる = MDGsの目標達成に貢献できている
と考えていたのです。
企業活動の実態としては、そう考えても違和感はありません。
従業員に働きやすい環境を提供しています!とか、環境問題に取り組んでます!とか、実際にやっているので、確かに広い意味ではMDGsの目標達成に貢献しているとも言えます。
ただ、この考え方は、これからSDGsに取り組んでいく上で大きな課題なのではないかと、私は感じています。
世界が企業に求めているのは、今やってることを正当化することではなく、これから新しく何ができるのか、だからです。
青葉の考え方
正直言って、SDGsって私のようにグローバル企業に長年いる人間にとっては、あまり新鮮味のある話ではありません。
表面だけ見れば、課題のとらえ方が広くなったのね、程度のものです。
なぜなら日本のグローバル企業は、ずっと昔から環境問題や社会問題と向き合い、CSRという行動方針を持っていたからです。
ところが、表面的な取り組みの裏側、すなわち実際に働いている人間の理解や考え方には、まだまだバラつきがあると感じています。
また、国内での事業を主にしている中小企業などでは、まだまだCSRに対する理解や取り組みは不足しています。
リーマンショックと東日本大震災によって、CSRのあるべき姿に多くの人が目覚めました。
でも、遥か彼方のアフリカで苦しんでいる人たちの存在はまだまだ遠い。
CSRに力を入れているといっても、MDGsには塩対応だった多くの企業のスタンスからは、まだまだ課題が感じられます。
我々企業も、SDGsを従来のCSR対応で流してしまってはいけないのです。
自分の住んでいる町や日本さえよければいい訳ではないのです。
結局、どんなきれいごとを言っても、その背後には私利私欲がうごめいているのがこの世界なのです。企業活動にも日々の生活にもお金は必要です。
SDGsを、世界をよくする取り組みと考える一方で、ひと山当ててやろう、という企業や個人も必ず存在しています。
では聞きますが、世界をよくしたいと純粋に願う人と、私利私欲でお金儲けしようとしてる人、対立しますかね?
NOです。対立しません。させないのです。
それがサステナビリティの本質なのです。
(次回に続く)