始まりは個人経営だった小さな会社も、ビジネスの成功と拡大によって、事業規模も大きくなり従業員も増えてきます。
新しい支店や工場ができ、宣伝広告を始めたり、大規模な採用活動を行ったり、大量の材料を仕入れたり、新製品の開発をしたり、新しい製造機械を導入したり・・・やることが山のように増えてきます。
当然ながら経営者でがすべてを対応することはできません。
そして、会社には「組織」が生まれ、管理職が生まれ、大勢の従業員がそれぞれの役割を持って、企業活動を行います。
「組織」には、2つの典型的な形態があります。
ひとつは「使命中心」の組織形態、もうひとつは「機能別」の組織形態です。
自分の会社の組織がどんな形態なのか、普段あまり意識しないことかもしれませんが、おおよそこのどちらかに近いと思います。
「使命中心」の組織形態
まずはこちら「使命中心」の形態です。
テレビ事業を遂行するという「使命」
パソコン事業を遂行するという「使命」
スマホ事業を遂行するという「使命」
を中心に編成されています。
これは、「完結した事業体で分けた」組織、つまり、まったく独立して運営されているいくつかの会社が、社長の下に集まったようなイメージです。
会社の中に複数の会社とそれぞれに社長がいて、責任と権限が分散されている感じですね。
この例で言えば、それぞれの事業本部は、それぞれ独立した会社のように、総務から営業、開発、製造をすべて事業本部の中でやってしまいます。
この例では、扱う製品ごとの事業本部にしていますが、これは「日本支社」「中国支社」「アメリカ支社」みたいに、管轄する地域で分かれる場合もあります。
日本でビジネスを展開する「使命」、ということです。
「機能別」の組織形態
次に「機能別」の形態です。
たぶん、会社組織と言えば、多くの人がイメージするのがこのパターンだと思います。
総務経理という「機能」
営業という「機能」
開発という「機能」
製造という「機能」
を中心に編成されています。
営業であれば営業本部という全社を統括する部門があり、その組織の中に、取り扱う製品やサービスごとにチームが編成されて所属しています。
営業は営業、開発は開発と、その機能において、あらゆる扱う製品、あらゆる場所にある支店や工場をすべて本社でまとめて面倒見るのです。
「ハイブリッド」の組織形態
各企業は、権力を分散するか、集中するかで日々悩み、組織や体制を見直しています。
特に社長が変わったときなんかに、組織形態が大きく見直されることが多いと思います。
つまり、組織形態には正解はなく、自社の事業内容や環境の変化に合わせて、常に変化していくものなのでしょう。
ここまで説明させていただいた「使命中心」「機能別」それぞれの組織形態はあくまで両極端な事例であり、実際はその中間のような形態の会社が多いように思います。
こういったケースは「ハイブリッド」の組織形態と呼ばれることがあります。
「使命中心」の形態と「機能別」の形態のミックスという意味です。
こちらも絵にしてみました。
この絵を見てどう思いましたか?
単純に縦横にクロスさせただけで、いったい誰が何やってるのかよくわかりませんね。
ところが、おおよそ世界の企業(特に大企業)は、組織や従業員の役割や名称が違っていても、ほとんどがこのハイブリッド組織だろうと思います。
一見「機能別」の組織(仕事の機能で分けた組織)のようでも、実際には「横串」(使命中心)の仕事をしている人を見かけること、あなたの会社でもありませんか?
たとえば、本社に全社を統括する営業本部や開発本部がありますが、製品やタスクごとに「プロジェクトマネージャー」とか「主査」という役職者を配置しているケースです。
この人たちは、営業でも開発でも製造でもなく、特定の製品の開発、製造、販売のすべてに責任と権限を持ち、その製品に関わるすべての業務をコントロールするのが仕事です。
なんか聞いただけでややこしそうですね。
ハイブリッド組織には一長一短があります。
ハイブリッド組織のメリット・デメリット
ハイブリッド組織のメリットとしては、規模の経済が活かせる、ということがあります。
たとえば、私が例にあげた会社だと、テレビとパソコンとスマホを作っています。それを作るときには、半導体などの電子部品が必要になりますが、これは、いずれの製品にも使われるものです。
これを各製品ごとにチマチマ買っていては安く買うことはできません。すべてまとめてドーンと買った方が、価格交渉や量の確保では有利になります。
人員にしても、総務や経理といった仕事であれば、まとめて一か所で面倒見た方が、効率的で人数も少なく済むでしょう。製品が違っても仕事の内容は同じなので。
また、各製品の販売状況によっては、「テレビの工場を縮小してスマホの工場を拡大しよう」なんて話も出てきます。各事業部同士でそんな話をしたらケンカになるだけですね笑
全社のリソース(人、モノ、金)を配分する場合には、中央集権の方が意思決定も早く、動きやすいものです。
各製品のあらゆる情報や環境に精通する人(プロジェクトマネージャーなど)が、全社的に規模の経済を活用しながら事業を進める。
全社にとってベストである大きな意思決定は迅速に行われる。
そのようないいとこ取りをしたのが、このハイブリッド組織です。
「〇〇社が組織改革!」なんてニュースを見ることもよくありますが、実際のところはハイブリッド組織の中の「使命中心」と「機能別」のバランスをちょいと変えただけのように思います。
もちろん、メリットだけではありません。デメリットもあります。
それは、ハイブリッド組織の絵を見てあなたが感じたことです。
そうです。ややこしくて、実際仕事がやりづらいことも多いんです。
インテルという有名なアメリカの半導体素子メーカーがありますが、この会社の元CEOであるアンディ・グローブ氏は、ハイブリッド組織についてこのように述べています。
会社活動に従事するつもりならば、ハイブリッド組織が不可避なものであることを認めなければならない。第二に、ハイブリッド組織を運営していくのに必要な実際上のやり方を開発し体得していかなければならない。
ハイブリッド組織のややこしさと、その対応策は、企業にとって永遠のテーマなのかもしれません。
二重所属制度
ハイブリッド組織のややこしさへの対応策として、「二重所属制度」を採用している企業もあります。
もう一度、ハイブリッド組織のイメージ図を見てみましょう。
この青と緑の矢印がクロスした赤い丸のところ。
「二重所属制度」とは、青と緑のそれぞれの組織にかけもちで所属する、ということです。
「ダブルアサインメント」というカッコいい呼称もありますが、要は「二足のわらじ」です。
その形に差はあれど、多くの企業(特に大企業)はハイブリッド構造となっています。
そして、同じく形に差はあれど、実は多くの企業がこの「二重所属制度」を活用しています。
実は私も、二重所属しています。経営企画部門という「機能別」の組織に所属しながら、とあるプロジェクトのリーダーも兼任しています。
二重所属となると、当然上司も2人なのか?と思いますよね。
そういう会社も実際にあります。特に外資系企業ではよく見かけます。
「日本支社としてのボスは〇〇さんですが、営業としてのボスはアメリカ本社のMr.〇〇です」という話をよく聞きます。
日本の企業だと、もう少しゆるい感じの「二重所属制度」が多いのかなと思います。(あくまで私の知る範囲では)
もう一度「機能別」の組織のイメージを出します。
たとえばテレビに関する仕事をしている人。
営業、開発、製造の各部門に、それぞれのテレビの仕事をしている人がいます。
この人たちが、「新型テレビ開発チーム」みたいに特別チームとして集まるケースもあります。
このチームは、特別に編成されたチームなので、リーダー的な人はいても上司という存在はありません。
この人たちの直属上司は、それぞれが所属する営業本部や開発本部にいる上司だけです。
私も二重所属していますが、このタイプです。
経営企画部門に所属しておりますので、自分のデスクも直属上司も経営企画部門内にいます。
部門内の仕事に関しては、直属上司にレポートしますし、私の人事考課もその上司が行います。
一方、兼務しているプロジェクトリーダーとしての仕事については、直属上司に報告義務はありません。(とはいえ、こんなことやってますので、くらいの報告は逐一しています)
こちらのプロジェクトに関して私の報告相手は社長や専務といった経営メンバーです。
一緒に働く同僚は、経営企画部門ではなく、他部門から選出された人たちです。
プロジェクトルームという会議室は存在していますが、そこに行くのは会議のあるときくらいで、私のデスクはありません。
このようなゆるめの二重所属であれば、編成も解散もかんたんですし、環境変化の激しい製品やサービス、業界には適していると思います。
また会社の将来を担う若手管理職に対しては、貴重な育成の場でもあります。
会社全体を俯瞰する感性を養い、それぞれの機能を持つ部門で活躍してもらう狙いもあります。
私が所属するプロジェクトのメンバーも、私は最年長で、みんなアラフォーの若手エース級の管理職ばかりです。(こんな連中と働くのは体力的にしんどいですが・・・)
「二足のわらじ」は苦労も多く、大変な立場ではありますが、ビジネスパーソンとしての成長にはコミットできる制度なのではないかと思います。
かわいい子には旅をさせろ、ってことですね。
結論としては、組織をどういじろうと、最後は個々の社員のパフォーマンス次第かな、って感じています。
組織体制を見直したから会社が強くなるのではなく、組織体制を見直すことによって人を育て、最大のパフォーマンスを発揮できる環境をつくることによって、会社は強くなっていくのだと思います。