経営企画部の仕事

私は大きな会社で「経営企画」の仕事をしています。

経営者の片腕となり、会社全体の舵取りをする仕事です。

部門名称は「経営企画部」とか「経営戦略室」とか会社によって様々です。

経営企画部の役割も会社によってそれぞれだと思いますが、一般的にはこんな仕事をするところだろうと思います。

 経営目標の策定と社内展開
 事業戦略や提携などの企画推進
 収益管理とコスト削減戦略の企画推進
 関連会社や事業拠点の支援
 各部門の予算や投資の管理

「企画」という仕事にも「商品企画」や「イベント企画」などいろいろありますが、「経営企画」は会社レベルの大きなタスクを経営者といっしょに考えて、実行に移していく仕事です。

実際、かなり経営に近いところで仕事をしていますので、経営企画部のスタッフが電卓叩いて出した数字がそのまま世間に公表されて、新聞に掲載されて・・・なんてこともあります。

 

経営企画部のスタッフに求められるスキルは、ネットで調べてみたらおおよそこの5つでした。

① コミュニケーションに長けている
② 数字に強い
③ へこたれない精神力
④ 行動力がある

⑤ 幅広い知識

どれも普通にビジネスパーソンに求められるものばかりですが、理想としてはあらゆる基礎的能力がハイレベルで求められるということが言いたいのでしょうかね。

だから経営企画部は「経営者の片腕」と呼ばれ、花形職場でエリート集団みたいなイメージを持たれている方が多いのでしょう。

多くの就活サイトでもそんな感じで紹介されています。

私の所属する経営企画部では、さすがに能力5点満点のスーパーマンはあまり見ませんが、頭のいい人が多いのは間違いありません。(「頭がいい」は「優秀」という意味ではありません)

また私のオフィスは、特別なICカードを持っていないと社員でもかんたんに出入りできないようになっているので、他部門の人は近寄りがたい雰囲気を感じていると思います。

実際働いているスタッフは、花形職場だとも、自分がエリートだとも感じている様子はありませんが、他部門の人からものすごく警戒されていることだけは間違いありません。

「親衛隊」とか「秘密警察」とか権力者の片腕ってのは基本的には悪役です。

 

先日うちに配属された新入社員と少し話す機会があったのですが、経営企画部を希望する新入社員は多いそうで、高倍率を勝ち抜いて配属されたことにかなり喜んでいる様子でした。

話を聞いてみると、やはりみなさん志が高く、「大きな仕事をやってみたい」という強い思いを持っていました。

ただ、目を輝かせている新入社員の顔を見ていると、

(ちゃんとした上司の下で働けたらいいけど・・・)

と少々心配になります。(新入社員の配属は私の部下に任せていますので)

 

経営企画部には働き者で頭のいい人がたくさんいます。

でもいくら頭がよくても「考え方」ひとつで仕事がうまくいかないこともあります。

京セラ創業者の稲盛和夫氏はこのように表現しています。

仕事の成果 = 熱意 × 能力 × 考え方

やる気満々の優秀な新入社員に仕事で成功してもらうためには、上司自らお手本となり「考え方」をしっかり教えられるかどうかにかかってきます。

経営企画部の「企画」とは?

経営企画部は、会社という大きな船を正しい方向(経営の意図する方向)に向かって操船しています。

そのために重要なのが「企画」です。

経営企画の「企画」とは、

 高い視点と新しい発想で仕事のやり方を生み出すこと
 経営と現場が数字でつながった状態をつくること
 全部門が同じ目標に向けて仕事ができる状態をつくること

であると私は考えています。

それが「企画屋」としての腕の見せ所で、経営企画部で働くことの醍醐味でもあります。

ところが、目の前の数字をいじくることが自分の仕事だと勘違いし、ただの「計算屋」になっているスタッフもいます。

そしてうちの経営企画部には、この「計算屋」が多くて困っているのです。

「企画」ができない経営企画部

経営企画部は会社の数字を扱う部門なので、データを計算して分析するのは重要な仕事のひとつです。

でもどんなに有益なデータや正しい分析でも、数字は数字でしかありません。

その数字を使ってどのように他部門を動かし会社という船を漕いでいくのか?

そこを意識できるかどうかが「企画屋」と「計算屋」の境界線となります。

うちの経営企画部には、入社したときから経営企画一筋のスタッフもいれば、私のように他部門から異動してきたスタッフもいます。

経営企画一筋で育ってきたスタッフの中には、特に「計算屋」が多いように感じます。

若いころから数字の計算ばかりやらされてきて、いつの間にか数字をつくることが仕事の目的になってしまうのでしょう。

 

経営企画部は経営者からの急な指示で右往左往することがよくあります。

「今日中に資料をまとめてくれ」なんてことは日常茶飯事です。(まあこれが「経営企画の仕事はしんどい」と言われる理由のひとつなのですが・・・)

頭がよくて根性のあるスタッフは、みんな必死で資料を作り始めます。

ところが「計算屋」が資料を作ると、ただのエクセル表に数字が並んだだけのものが返ってくることがよくあります。

よほど頭のいい経営者であれば、じっくりと数字の羅列を眺めたら理解してくれるかもしれませんが、せっかちで多忙な経営者にはそんな時間の余裕はありません。

経営者に見せる前に上司がチェックしますが、「こんなもんそのまま出せるか!」となります。

みんな大嫌いな「仕事の手戻り」が発生するわけです。

エクセル表に数字を入力しただけで自分の仕事が終わったと勘違いし、相手に理解させるところまで気がまわっていないのです。

「計算屋」が引き起こす仕事の手戻りによって、ますます資料づくりに時間を取られ、本来やるべき「企画」をする余裕がないという悪循環を生み出します。

こんな仕事のやり方では、いつまで経っても経営と現場を数字でつなぐことなどできません。

 

でも作ってもらえればまだマシな方です。

「業務提携を検討している相手企業の10年後の売上予測」とか、この世に存在しない情報を経営者は求めることがあります。

目の前にある数字ならどのようにでも扱う「計算屋」ですが、存在しない数字を求めると固まります。

「そんなデータはありません、出せません」と言い切るわけです。

言い切らないにしても、抱え込んでしまっていつまで経っても情報が出てきません。

上の人たちもイライラするわけです。

経営者だってそんな情報が存在しないことは百も承知で頼んでいるのです。

「企画屋」なら、何かしらの前提条件を仮置きして鉛筆を舐めて数字をつくり、経営者に報告するときに「ここはこういう前提を置いてます」と説明すればいいだけです。

経営企画部は、誰かが作った道を歩くのではなく、何もないところに道を作るのが仕事です。

それが「企画」です。

「企画」ができない経営企画部は、経営「計算」部と改名しなければなりません。

 

経営企画部ではデータの集計や分析は重要な仕事なので「計算屋」は必要です。

特に若いうちは上司の指示で計算ばかりやらされることもあります。

そんな日々でも、その数字によって経営者は何を考えるのか、会社がどう動くのか、どのように人を動かしていくのか、を少し意識するだけで、「企画屋」としての考え方や仕事のやり方が身についていきますし、自分の仕事に大義を見出すこともできるでしょう。

頭のいい人の中には、計算そのものを楽しく感じている人もいるかもしれません。

それはそれでよいことですが、経営企画部のスタッフはアナリストではなくビジネスパーソンですから、人や組織を動かしてなんぼだということを、自覚しなければなりません。

いくら頭がよくても、計算ばかりの仕事に喜びを感じる人でも、人や組織を動かせない人にはそれなりの居場所しかありません。

経営企画部が必要としているのは「計算もできる企画屋」なのです。

経営企画部はしんどい?

経営企画の仕事はしんどいと言われています。

その大きな理由のひとつに、経営者と現場の板挟みになることがあげられます。

たしかにこれはしんどい。私もそう思います。

うちの経営企画部でもメンタルをやられるスタッフはいます。

きれいごとを言えば、常に経営者と現場が一枚岩になっていて、その間に立つ経営企画部が板挟みにならない状態が理想で、そういう状態を普段から作っておくことも経営企画部の役割です。

でも実際は、経営者から到底不可能とも思えるような目標や業務指示が与えられ、経営者の指示は絶対だからと、経営企画部のスタッフは現場に無理を押し付けざるを得ない状況になりがちです。

当然現場は抵抗するわけですが、経営者に直接文句は言えませんから、経営企画部のスタッフに「八つ当たり」する人も出てきます。

圧倒的に正しい論理と経営者の命令という印籠さえあれば、現場を抑え込むことはできますが、強引すぎても問題です。

人間関係や部門間にヒビが入ります。

 

うちの経営企画部のスタッフがメンタルをやられる原因は、ほぼ間違いなく上司のせいです。

「企画」ができない上司が、部下をつぶしてます。

右から左に経営者の指示を現場に投げるのは、経営企画部としてはもってのほか。

しかもそれを部下に丸投げするのは最低の上司です。

武器も戦術もなく兵隊を負け戦に送り込むようなものです。

丸腰で戦場に行かされた部下は、現場からバカかアホかと言われてボロボロになるのです。

 

私が考える経営企画の「企画」の定義。

 高い視点と新しい発想で仕事のやり方を生み出すこと
 経営と現場が数字でつながった状態をつくること
 全部門が同じ目標に向けて仕事ができる状態をつくること

部下に仕事を任せるのはいいですが、そのために上記の環境を整えておくことは上司の責任です。

そして、どうしても他部門からの抵抗が抑えられない場合は「大将の一騎打ち」です。

上司自ら直接現場の声を聞き、その主張が正しければ経営者にしっかりと届けるべきです。

そもそも経営者といっても、天才的経営者は一握りの存在であって、ほとんどは「その辺にいるふつうの人」です。全知全能の神ではありません。

言うことすべてが絶対的に正しいなどと思ってはいけません。

「経営者の片腕」とは、言いなりに動くロボットではなく、作戦参謀でなければなりません。

世の中には自分が神であるかのごとく振る舞う経営者もいると思いますが、だからといって裸の王様にしてしまっては、結局会社が傾き、自分にとってよいことにはなりません。

真正面から反対意見を言うのはむずかしいと思いますが、経営と現場をつなぐときに工夫のやりようは必ずあるはずです。

経営企画部が求めるスキル

一般的に就活サイトなどで言われている、経営企画部が求めるスキルは、冒頭で紹介したこの5つです。

① コミュニケーションに長けている
② 数字に強い
③ へこたれない精神力
④ 行動力がある

⑤ 幅広い知識

いずれも間違ってはいませんが・・・ここまでぜいたくを言ってしまうと「経営企画の仕事なんて自分には無理だ」なんて誤解されそうです。

これ見て「自分に向いてる!」って思える人の方がむしろ怪しいです。

私が就職活動していたころは、そもそもインターネットがありませんでしたが笑、この程度のネットの情報で仕事先をまじめに検討している人がいると思うと少々心配です。

私に言わせれば、経営企画の「企画」がなんたるかを理解していれば、数字に弱くても、メンタルが弱くてもなんとかなると思いますよ。(そもそも私自身、数字に弱くてみんなの話についていけてませんから)

仕事の成果 = 熱意 × 能力 × 考え方

能力の足らずは「考え方」で十分カバー可能です。

ただし、「企画」を理解している上司の下で働けるのであれば、というムズカシイ条件付きで。

就職や転職で経営企画を希望されている人は、面接官にぜひこの質問を投げかけてみてください。

「御社の経営企画の”企画”とはどういう意味でしょうか?」