管理職にとって重要な仕事のひとつに、人事考課があります。

会社によっては、人事評価とも呼ばれていますが、要は部下の昇給、昇進、ボーナスなんかの査定です。

これはシンプルなようで、実は非常に難しい仕事です。難しいからこそ、多くの企業ではいろいろな悩みや問題を抱えているのではないでしょうか?

そもそも人事考課のやり方に絶対的な正解があるのか、私にはよくわかりません。

難しいとはいえ、人事考課は管理職が部下の評価をフィードバックできる唯一の公式な方法です。

また、ただ部下に評価を一方的に伝えるだけではなく、部下の成果をさらに大きくする手段でもあります。

どこが強みでどこが弱みなのか?強みをどうやってさらに伸ばし、弱みをどうやって改善していくのか、を一緒に考える「組織のシステム」なのです。

人事考課で注意すべきこと

たとえば営業の仕事をしている場合、契約件数や契約金額のようなわかりやすい成果だけで評価するのなら簡単です。

人事考課の難しいところは、成果というものはわかりやすいものだけではないことです。

契約が取れなかったとしても、顧客の困りごとを解決して、すごく感謝され、次の発注の約束をもらっているようなケースもあります。この困りごとを解決した努力も評価されるべきすばらしい成果です。

評価期間内の目に見える成果だけではなく、将来成果を出すための「仕込み」についても、評価しなくてはいけません。

このような「仕込み」は、成果が出るタイミングに時差があるということを、管理者は理解しておかなければなりません。

目に見えない、わかりにくい成果をきちんと評価するのは、管理職に必要な能力のひとつです。

わかりにくい成果を評価するためには、あらかじめ部下に対して、上司の期待値を伝えておく必要があります。

あらかじめ期待値をしっかり伝えることによって、それがモノサシとなり、わかりにくい成果を上司も部下も測りやすくなります。

 

評価する相手(部下)が管理職であった場合(部長が課長を評価する場合)、その管理職が率いるチームの成果も大きな判断材料となります。

では、優秀な管理職が率いているチームの業績が悪かった場合、その管理職の評価はどうするべきでしょうか?

「この課長は優秀だし頑張っているし、評価を高くしよう」

ついそう考えてしまいがちですが、これはやってはいけないことなのです。

管理職の評価を、その率いるチームに与える評価より高くすることはできません。

これをやってしまうと、結果が出なくても頑張れば評価される、とみんなが考えるようになります。

ただみんなが頑張るだけで成果が出ない組織、会社の行く末は真っ暗です。

こんなに頑張っているのに他社に負けるのはなんでだ、給料が上がらないのはなんでだ、なんて不満が生まれてくるかもしれません。

頑張るのは良いことですが、管理職の評価だけは別です。

ポテンシャルで評価するのではなく、実績で評価することが大切です。

 

これは誰を昇進させるか、についても同じことが言えます。

誰かを昇進させるということは、社内に対して「この人がお手本だよ!」と宣言することです。

きちんと業績を上げた人を高く評価し、昇進させることによって、皆がやるべきことを理解するのです。

 

「そうは言っても頑張っている課長を評価してあげたい。彼のチームは元々やっかいなチームだったし・・・」

そんなケースもあります。

それは業績評価ではなく、異動の際に配慮することもできると思います。

「彼には苦労かけちゃったから、今度はもっと成果が出やすい職場にしてあげよう」とか。

そのくらいの情が入ってもいいのではないかと、個人的には思っています。(正解はありません)

人事考課の内容を伝える

部下の評価を下げないといけない場合、まだ経験の浅い管理職には気が重い仕事だと思います。

慣れるまでは少々つらい仕事ですが、肝に銘じてもらいたいことがあります。

人事考課は部下のためにある

ということです。

上司も人なので、よい評価を告げるときはやっぱりうれしい気持ちになります。一方、悪い評価を告げるときは憂鬱になります。

でもこれは、評価を伝える側の上司の気持ちの問題であって、部下には何も関係ありません。自分勝手な感情でしかありません。

とにかく部下のため、部下を成長させるための管理職の仕事なのです。

そのために部下よりも多くの給料をもらっていると心得ましょう。

低い評価を告げられた部下は当然良い気分にはなりません。怒りを表す部下もいるかもしれません。

それでも部下のために、管理職は全能力を駆使して、あなたが伝えるべきことを冷静に部下に伝え、部下が腹落ちするまであきらめてはいけないのです。

すべては部下のため。それしかないのです。

上司が言いたいことをすべて伝えることが目的ではありません。

どうすれば部下の業績を上げられるか、成果を大きくできるか、それを要点を絞って伝えなければいけません。

言いたいことを一方的にペラペラ話すのは厳禁です。あくまで部下ファーストです。

低い評価を伝えられた部下の反応(5つのパターン)

低い評価を伝えられた部下の反応としては、5つのパターンがあります。

① 部下が自分の問題を無視する
② 部下が自分の問題を否定する
③ 部下が他人を非難しだす
④ 部下が非を認め責任を感じる
⑤ 部下が解決策を見つける

①②③はほぼ同時に起こることが多いです。

「知らねーよ」「俺は悪くねーよ」「あんたのせいだろ」こんな感じ。

大切なことは③から④への移行。このハードルが一番高いのです。

ただでさえ不愉快な事実を、自分の責任として受け入れるのはなかなかしんどいですね。

 

このハードルを乗り越えるための正解はありません。

管理職の能力、経験、キャラ等を総動員して、自分なりのスタイルを作っていくしかありません。

結局のところ、組織においては上司の方が圧倒的に強いのです。

最後は「業務指示」として、仕事のやり方や行動をアドバイスし、それを守ることを約束させ、その約束に対して部下がどう変わっていくか、その事実をしっかりとモニターするしかありません。

エース級部下の評価

エース級部下の成果は、誰が見ても日頃からのパフォーマンスが高いため、評価の付け方が雑になりがちです。

「彼は一番上の評定でいいだろう」「ですね、異議なし」

管理職が集まる評価会議なんかでは、秒で決まることもよくあります。

優秀な部下の評定は、褒めポイントがたくさんあるから上司も楽です。そもそもいい評定だから、本人に伝えるときにもモメることもありません。

実際に私も、上司から高い評価を伝えられるときは、あっさりしたものでした。

「今期の評価はこれで。いつも頑張ってくれてありがとう。優秀な君にこれ以上言うことはありません。今後もこの調子でお願いします。以上」

みたいな感じで、30分予定だった評価フィードバックの面談が3分で終わることも・・・

でもこれではダメです。

エース級だからこそ、もっとじっくり時間をかけて、課題を与えなければなりません。

優秀な部下を使い倒すことは、組織の成果にレバレッジをかけることになるため、仕事ができない部下に時間を割くよりも効率的なのです。

また、どんなに優秀な部下であっても、改善の余地は必ずあります。これも忘れてはいけないことです。

 

できない部下が少しでも成果が出せるように育成指導し、人による成果のバラツキを最小化する。

できる部下をレバレッジとして活用し、組織の成果を最大化する。

管理職はこの両輪を常に意識しなければなりません。