堅気のサラリーマンである私が刑務所を訪問したときの話です。
刑務所とサラリーマンの関係
刑務所では受刑者が社会復帰を目指して、木工製品や革製品など様々な製品を作っています。
その製品は「刑務作業製品」と呼ばれています。
なんとオシャレな専用通販サイトまであるんですよ。
キティちゃんグッズなんかも作っています。
ある日、うちと取引のある企業の社長さんと雑談をしていたときに、その会社が刑務作業製品を取り扱っているという話を聞いたんです。
そして「一度見てみませんか?」とお誘いを受けたわけです。
刑務所!?行ってみたい!ぜひぜひ!
単純にそう考え快諾しました。
刑務所を訪問!
社長さんとふたりで、とある刑務所を訪問しました。
見た目は明るい色の建物で、芝生もよく手入れされています。看板さえ見なければ、学校みたいな感じです。
社長さんは慣れた様子で、入門手続きをやってくれています。その時、建物の方から二人の男性が近づいてきました。
刑務官!
ようこそ!お世話になってます!
社長さんと親しげに会話を交わしています。
(普通のノリじゃないか!ちょっと安心したぞ)
二人の刑務官に案内され、どこに連れていかれるのかと思ったら、刑務官の事務所の中を横切って、奥にある不気味な部屋に通されました。
応接室でした。刑務所の。
どうぞこちらへ
深々とおじぎする刑務官。うやうやしくお茶を差し出す刑務官。
なんだ、この空気・・・なんで応接室に?この歓迎ムードは何?
颯爽と4名の初老の刑務官が応接室に入ってきました。
いつもお世話になっています ようこそおいでくださいました
深々と頭を下げながら差し出された名刺。肩書が長い。法務事務官なんとかかんとか・・・
(ああ、この刑務所で最強の方ですね)
おもむろにパンフレットを数冊渡されました。それが、刑務作業製品のパンフレットなのです。
ここから先は、私が日々経験しているビジネストークそのものでした。
所長さんや幹部刑務官のみなさん、熱心に刑務作業製品の売り込みを始められました。
木工なら〇〇刑務所がおススメです!
革製品なら△△かな?あそこは手先が器用な受刑者が多いんですよ!
刑務官の仕事って、言うこと聞かない受刑者をこん棒でぶん殴るイメージでしたが、幹部の方たちはこんな営業活動もしているのです。
みなさん気さくで怖くない!
なんだ俺と同じビジネスマンじゃん〜
30分ほど商談、というか雑談をして、実際に作業現場を見に行くことになりました。
ささ、どうぞこちらへ!
幹部の方たちと一緒に外に出たら、さらに4名の屈強な刑務官が待ち構えていました。総勢10名です。
えらい大名行列だな・・・お巡りさんに囲まれてるみたい
恐怖の作業現場
さっそく、作業現場に案内されました。
私のまわりは幹部を含めた8名の刑務官ががっちり取り囲んでいます。
みなさん刑務官の制服を着ています。まるで政府要人になった気分です。
作業現場に入った途端、温和な刑務官のみなさんの目つきが変わったことを、私は見逃しませんでした。
(ああ、この目・・・こん棒で殴る人の目だ・・・)
作業現場には見慣れた設備が並び、5名の作業者(受刑者)が黙々と作業をしています。
ものづくりの現場に出ると私もいつもの平常心が取り戻せます。頭が仕事モードに切り替わります。
昔、製造現場の改善コンサルタントなんかもやっていたので、現場は私のホームグラウンドなのです。
さっそくいつものように気づいたことを指摘してみました。
ここの工程は作業者と作業者が離れすぎていて効率的ではないですね
もっと設備の間隔を詰めた方がいいですよ
いえ、作業者同士が近いと肩が触れただけで殴り合いのケンカになりますんで
この作業はしんどそうですねぇ
作業者の負荷が高すぎませんか?
いえ、これでいいんです
だってこれは ”刑罰” なんですから
(もう今日は何も言うまい 何も言うまい・・・)
そのあと、私はただ沈黙して引きつった笑顔で説明を聞いていました。
そこで気になったことがあります。
これだけの大名行列が現場に来ているのに、作業者(受刑者)が一切気にしない様子で働いているのです。こちらを見ようともせず、知らん顔、完全無視です。
つい口に出してしまいました。
みなさん、一切我々のことを気にしていない様子ですね・・・
作業中は目を合わせることを禁じているのでみんなルールを守っています
でも殺気を感じませんか?
実はみんな、気になって気になって仕方ないのを必死で我慢してるんですよ
全身に鳥肌が立ちました・・・
うん、教育も行き届いてて良い作業現場ですね!次行きましょ!次!
違う建屋に移動しました。
そこではキティちゃんの封筒を、包装用ビニールに入れてシールで封をする作業をしていました。
スキンヘッドにドラゴンを彫り込んだ大男が。
彼はコロシです
(いやいや、誰もそんなこと聞いてないでしょ!その情報いらないから!)
刑務官の説明は止まりません。
ほら、あそこに木で出来た小さなロッカーみたいなのあるでしょ?
あれ何だかわかります?
ここから先は記事にはできません。現代の日本にあってはならない器具。
再び応接室に戻った私は緊張感からか疲れ果ててました。
ちょっと落ち着きを取り戻し、少し仕事モードの頭が戻ってきました。
あの作業者のみなさんはもう長いんですか?慣れた感じでしたけど
いや、そうでもないんですよ けっこう入れ替わってますね
毎週〇曜日に新しい受刑者が入ってくるんですけど、〇〇社長さんとこは品質管理が厳しいので選りすぐった人間を充てています
選りすぐった人間?
シャブ中ははずします
最近うちは多いんですよね シャブ中
ああ、なるほど・・・
ちゃんとされてるんですね・・・
さてそろそろ帰りましょうかね
(聞いた私がバカでした)
滞在予定時間を繰り上げて、私は刑務所を後にしたのです。
刑務所のビジネス
ビジネス的に気になるのは、刑務所での作業がコスト的にどうかってとこです。
一般的な(堅気の)工場であれば、労務費なんかもある程度相場がわかりますが、この刑務作業というのは、価格の決め方が特殊です。
受刑者に時給なんて考え方ありませんからね。
価格の決め方は一応聞いてみたけど、これは企業秘密!いや、ムショ秘密!
結論から言えば、「まあ安いのかなぁ」程度の感じですね。
それと、思ったよりも外国人受刑者が多く国際色豊かでした。日本の社会問題を垣間見た気がしました。これからもっと増えてくるのでしょうね。
受刑者たちは犯罪を犯した人たちです。
当然そこには被害者もいるわけです。
とても受刑者たちを応援しようという気にはなりませんが、このような受刑者たちが、強制労働とはいえ、世の中に価値をもたらしていることはせめてもの救いです。
早く更生して、習得した技術を使って、今度はシャバでものづくりを頑張ってもらいたいですね。
今でもファンシー文具を見ると、スキンヘッドドラゴンのあの大男を思い出します
貴重な体験記事ありがとうございます♪
ゆーひまさん、ありがとうございます!ブログの方でコメントをいただいたのは初めてです。なかなか貴重な体験をしてきました笑
今後ともよろしくお願いします!