※ この記事については、職務上知り得た極秘情報、この企業を特定できるような情報には配慮して執筆しています。

衝撃の工場との出会い

「ぜひ一度うちの工場を見てください!」

仕事で知り合った、とある自動車部品メーカーの方からお誘いをいただきました。

仕事柄このようなお誘いは多く、なかなかお応えすることはできないのですが、たまたま近くに行く用事があった為、ふらりと寄ってみました。

私も様々な業界の工場を訪問してきましたので、見る目は肥えていると自負してますが、この工場にはいい意味で衝撃を受けました。

ここは公園?動物園?

とあるJR駅から、車で小一時間程度走った山奥の工業団地に、その企業の主力工場はありました。

さあ、着きましたよ!」

わざわざ駅まで迎えに来てくれた営業部長さんの言葉に、まわりの景色を見渡しました。

「え?ここが??」

私の経験上、工場というのは、門から入ったとたん、目の前にデーンと大きな工場建屋が見えるもんです。

でもこの工場は、そんな大きな建屋が見えません。

敷地内には様々な樹木が生い茂り、芝生におおわれていて、いたるところにベンチが置いてました。

よく手入れされた、ちょっと大きめの公園って感じです。

 

タクシーは敷地内の小道をって小さな建物の前に停まりました。

どうもそこがこの工場のオフィスのようです。

まわりを見渡せば、公園のような敷地の中に、このような小さな建物が点在しています。

「いったいメインの工場建屋はどこなんだろう?」

車を降りて、そんなことを考えていたら、オフィスの入っている小さな建物の中に案内されました。

 

建物の中に一歩入ってまたビックリ。

中は観葉植物、水槽、金魚鉢で埋め尽くされており、ジャングルのようになっているのです。

ワイルドなペットショップみたいです。

私が入った時は、ちょうど観葉植物の入れ替え作業中で、多くの人が植木鉢をもって右往左往していました。

 

会議室に通され、先方の工場長さんや管理職のみなさんと簡単に挨拶をさせて頂きました。

 

私「いや、なんかすごいですね。ここ。」

工場長「ええ、まあよく言われますね。」

 

この工場ではこのジャングルオフィスが当たり前なのでしょう。

淡々とした答え方でした。

 

私も世界中、いろいろな工場を見てきました。電気製品、自動車、食品、衣類、スポーツ用品などなど・・・

庭をきれいに手入れしている工場はよく見かけますが、ここはまさに広大な自然公園です。

 

会社の概要説明を受けたあと、では現場を見に行きましょう、という事で、会議室を後にしました。

外に出たら、移動用のゴルフカートが待ち構えていました。

工場内の移動にゴルフカートを使うことはよくありますが、ここは公園。

ゴルフ場にいるような感覚です。

 

公園の中を数分走って、小さな建物の前でカートは停車しました。

 

工場長「こちらが工場です。さあどうぞ!」

私「え?これって倉庫じゃないの?建物が小さすぎませんか?」

 

そんなことを話しながらカートを降りました。

そのとき!

ニワトリの群れ

が私に向かって突進してきたのです!!

 

私「ニワトリ・・・ここで放し飼いですか・・・」

工場長「それは烏骨鶏です。うさぎもいますよ。」

 

工場の中に入りました。

うん、たしかに、見慣れた生産設備がいろいろとあります。

にしても、この企業の主力工場としては、あまりも小規模な設備です。

 

私「ここですべて作ってるんですか?」

工場長「いえ、これと同じ設備を持った建物が、敷地内に20ヶ所あります」

 

普通の工場では、ひとつ屋根の下にすべての工程を集約して、効率的に生産し運搬するものです。

サイズや種類の違う自社製品を、なるべく一か所にまとめて、同じ設備をうまく使ってつくるのが効率的だからです。

ところがこの工場は、同じ設備を持った小さな工場が20か所、分散して配置されているのです。

なんという非効率!

一か所でドーンと作った方が効率的なはず。モノを運ぶ距離も短く、人も少なくて済みます。

工場長「私はこの建屋の工場長です。」

私「え?それってつまり・・・」

工場長「はい、私以外に、ここには19名の工場長が存在します。」

 

私の衝撃はまだ終わりませんでした。

通常、見学者が工場の現場に入るときは、安全を考慮してヘルメットや帽子を用意されます。

 

私「すみません、ヘルメットか帽子を借りてよいですか?」

工場の人「え?必要なら用意しますが・・・」

 

海外ならまだしも、安全第一、品質優先の日本の工場で、こんなことが許されるのだろうか・・・

この工場には、製品の見栄えをよくするために、スプレーで塗料を吹き付ける塗装工程というものもありました。

通常、塗装工程では、髪の毛一本、チリの一粒も許さんという感じで、徹底的に異物混入の管理がされるものですが・・・

塗装工程を見学するときも帽子なし・・・

 

私は困惑しながら、帽子なしで見学しました。

(もちろん、作業者のみなさんはヘルメットや帽子を着用しています)

 

製造工程そのものは、見慣れた光景でとくに違和感はありませんでした。

 

ところが、工場の中にある事務所の机のレイアウト。

これに大きな違和感を覚えたのです。

 

事務所の中の机が、ランダムにバラバラの向きで置かれているのです。引っ越しの途中かと思いました。

どの事務所もまったく統一性がなく、ランダムに机が置かれているのです。

 

私「ここの机のレイアウトは変わってますね・・・」

工場の人「3か月に1度、社長の現場視察があるのですが、その時に、机のレイアウトを毎回変えておかないと怒られるんです・・・」

私「毎回レイアウトを変える??」

工場の人「はい、だからいい加減変えようがなくなって、こんな感じになってます笑」

 

机がデタラメに配置された事務所。

これまたなんと非効率!

カオス!!

 

工場見学を終えて、再びゴルフカートに乗り込んで会議室に戻る途中、まわりの景色を眺めていました。

点在する小さな工場の建屋、生い茂る樹木、手入れされた芝生・・・テーマパークにしか見えません。

よくみると、あちこちに菜園もありました。「採れたてトマト販売中!」なんて看板も見えました。

工場を有機物化せよ!

衝撃的な工場見学を終えて、事務所で管理職のみなさんといろいろとお話しをさせていただきました。

そこで私は納得させられたのです。

この奇妙なテーマパーク、いや工場の考え方を。

それは、

工場を有機物化せよ

なんです。

つまりこういうことです。

工場というものは機械でできた無機物の集合体。
無機物で作ったものは無機物となる。
我々が作っている製品はお客様にとって大切なもの。
従業員が製品に愛情を注がなければよいものは作れない。
無機物に愛情を注げるのか?答えはNOだ。
だから製品を有機物として考え、その製品を作る工場も有機物化するのだ。

なんと素晴らしいコンセプトでしょうか!

工場の有機物化。

 

その答えが、ニワトリの飼育だとか、オフィスを観葉植物だらけにする、というのは、飛躍しすぎかもしれません。

でも、日々動物の世話をし、菜園や植物の手入れをちゃんとしている従業員が作っている製品。

私にはとても魅力的な製品に感じます。

きっと動物や野菜を扱うように、大切に愛情をこめて製品を作っているはずです。

 

ちなみに、動物の世話や菜園の手入れは、業務時間として扱われているようです。

業務時間外に、従業員が自ら庭の手入れをする工場はよくありますが、ここは社長命令で、業務の一環としてニワトリの飼育をしているのです。

もちろん、かかる費用もすべて会社持ちです。

 

工場が分散している理由は、各工場に独自性を持たせながら、工場間で競争させるため、とのことでした。

生産性向上や収益の競争だけではなく、庭の手入れや樹木の美しさまで競争しています。

20名の工場長が、自分のオリジナリティを出しながら、楽しく厳しく競争しているのです。

「となりの工場がトマトを作るなら、うちはじゃがいもだ!」

菜園で作る野菜の出来栄えを競いながら、工場の生産性でしのぎを削っているのです。

 

なるほど。

 

もちろん、半分ふざけているように見える工場ですが、各工場はしっかり数字で管理され、日々の生産性や収益性がちゃんと見える化されていました。

この指標がまたすさまじいのですが、これは企業秘密になりますので、ここでは説明を控えます。

本質を追求する生きた工場

この工場は、

「物事の本質を追求している」

と感じました。

世の中には、その理由や本質を理解せずとも、盲目的に従うべきルールというものがあります。

今回のケースで言えば、工場見学するときは帽子を着用する、というルールが、日本の製造業では当たり前のルールです。

「なぜ帽子をかぶる必要があるのか?」

と問いかければ、一般的な答えとしては、

「ケガを防ぐためです」

「毛髪が製品に付着しないようにするためです」

になろうかと思います。

 

ちょっとヘリクツこねて、

「帽子をかぶっていたことによって負傷をまぬがれた事例はありますか?」

「見学者の毛髪が実際に品質不良につながった事例はありますか?」

なんて聞き返したら、ほとんどの工場が答えに困るでしょう。

 

帽子の件はほんの一例で、きっとここの社長さんや工場のみなさんは、あらゆる常識について、今一度本質を問い詰めているのです。

「そもそもこれって何のためにあるの?」

ふつう誰も気にしない当たり前のことに、そんな問いかけを自然と行う企業風土があると感じました。

 

ただ、それでも私は、工場見学の際は帽子をかぶるべきだと思っています。

理由はありませんが、理由のないルールによって秩序を作り出すことは、時と場合によっては必要だと考えています。

見学時の帽子着用に関する是非はさておき、この本質を追求し、割り切ってトップが判断する、という企業風土は見習うべきですね。

まとめ

私の工場見学は1時間程度だったのですが、この工場から多くの気づきを得ることができました。

製造業の一般的な考え方だと、物流効率や安全面、品質管理について、小言を言いたくなるような工場です。

実際、訪問客の中には、小言を言い散らかして帰る方もいると伺いました。

 

でも、この工場が実際にやっていることの是非はともかく、

ものごとの本質を追求する

という考え方は、製造現場だけではなく、オフィスワーカーも、すべてのビジネスパーソンが見習うべきです。

 

この企業の売上は右肩上がりで増え続けています。

この工場で作られている製品は、最近では中国勢におされ、日本の競争力は低下しています。

日本での事業を撤退する企業も出てきています。

 

実際に撤退を決断した企業を私は知っています。

従業員はみんなまじめで、工場長も優秀なビジネスマンで、5S管理や製造改善活動に一生懸命取り組んでいました。

でも赤字続きで事業撤退しました。

 

それでもこの工場は売上を伸ばしているのです。

その理由は、ニワトリを飼っているからでも、見学者に帽子をかぶらせないからではありません。

ものごとの本質を追求する

という企業風土が根付いているからです。

 

ただ、机のレイアウトを3か月ごとに変えるというのは、今でもよく理解できません。

いつか社長と会う機会があれば、その心を聞いてみたいと思います。