日々劣化していく管理職
意思決定、つまり決断することは、管理職の重要な役割です。
特に中間管理職となると、小さなことから大きなことまで、様々な意思決定が日々求められます。
たまに意思決定疲れして、もうそんなの勝手に決めてくれ~!
と叫びたくなる時もあります
そんな管理職の意思決定ですが、ひとつ大きな問題があります。
「地位の力」と「知識の力」
管理職が意思決定をするためには、当然ながら知識と経験が必要となります。
ところが、この管理職の知識が世の中のスピードについていけないことがあるのです。
管理職もかつては優秀な社員でした。若い頃は「知識の力」でバリバリ仕事をこなし、成果をあげて、そして管理職に昇進したのです。
そして今では出世して「地位の力」(ポジションパワー)を得ました。
ところが業界によっては技術や顧客ニーズの変化が早く、日々必要とされる知識が変化していくのです。
特に先端技術分野においては、最近まで大学で研究していたような若い新入社員や、転職してきた若者の方がよほど詳しかったりするのです。
そんな若者に、管理職は「知識の力」で勝つことはできません。
ところが、意思決定するのは「地位の力」が強いひとです。
つまり、知識のない人間が意志決定する立場にある、という問題が発生するのです。
管理職は「足らずを知る」べき
知識のない管理職が「地位の力」だけで意思決定してしまったら、それは会社を間違った方向に導きかねません。
管理職自身がそれに気づいていればまだマシですが、気づいていない場合、部下に陰口をたたかれるでしょう。
何も知らないくせに偉そうにしやがって
中には「地位の力」を持っていて、「知識の力」も若者に負けない猛者もいます。
でもそんな人はほんの一握りです。
管理職は「地位の力」を与えられています。
でも意思決定をするときには、自分の知識レベルをしっかり自覚しておく必要があります。
もし知識が足りないと思えば、その知識を持っている人に遠慮なく救いを求め、「地位の力」と「知識の力」が協力しあって意思決定できるように努めなければなりません。
「老いては子に従え」という言葉もありますね。
長い間「地位の力」に頼った仕事をしていると、根拠のない万能感に取りつかれてしまうこともあります。
なんでもかんでも自分が正しい、自分の方がよく知っていると思い込んで、部下の話に耳を貸さなくなる管理職もいます。
管理職は部下からマウントを取ることに一所懸命になるのではく、いかに部下にマウントを取らせてあげるかを考えなければなりません。
すでに「地位の力」を持っている管理職がマウントを取るのは簡単です。
部下から「知識の力」を引き出し、自分の「地位の力」に対抗できるように仕向ける。
それこそが「地位の力」と「知識の力」の協力関係なのです。
「己の足らずを知る」ことは、ビジネスパーソンに極めて重要なことです。
意思決定のむずかしさ
ビジネスの現場では、結論を出すのが難しいケースがよくあります。
利益を優先させるか、納期を優先させるか、といった苦渋の選択を迫られることはしょっちゅうですね。
例えば、上司抜きで同僚が集まって会議をするケース。
必ず誰かがこう言います。
上司もいないし、みんな遠慮せずに思ったことを自由に発言しましょう!
最初はみんながいろいろな意見を出し合います。
バラバラだったみんなの意見もだんだん絞られてきますが、それでもなかなか結論に至りません。
そうなると何が起こるか?
参加者の多くは沈黙して様子見を始めるのです。
何人かのアグレッシブな人たちは、まだワーワーやってます。
その様子を黙って眺め、優勢な意見の側にまわりこもうとするのです。勝ち馬に乗る、ってやつですね。
難しい顔をしてウンウンとうなずきながらも思考は停止状態。考えるのに疲れてしまって、もはや「どっちにつくべきか」ということしか考えないのです。
そしてみんなこう思うのです。
はぁ・・・上司にも声かけとけばよかった・・・
どんなに優秀な人間が揃っていても、たったひとりの上役(たとえ使えない上司でも)がいないだけで結論が出ないケースがあるのです。
顔見知りのメンバー同士であれば、遠慮なく意見できるので結論が出やすいですが、たとえば他部門や社外の人が集まった会議なんかでは、多くの人は遠慮しがちです。
「出しゃばりたくないなぁ」と遠慮してみんなが様子見してしまいます。
よって、このような状態になってしまいそうな難しい議論をする場合は、意思決定のできる人間をひとり置く必要があります。
その問題に精通し、みんなを圧倒する「知識の力」を持っている人
あるいは、
バカでもいいので「地位の力」を持っている役職者
のいずれが会議には必要なのです。
「知識の力」か「地位の力」のいずれかを、他の出席者より頭ひとつ抜き出て持っている人を置かなければ、せっかくの会議で結論が出ないなんてことになりかねません。
役職者が結論を出すことをためらうケースもあります。
ヘタなことを言って、みんなからバカだと思われることへの恐怖心です。
当たり前と言えば当たり前のことですね。
でも管理職たるもの、そんな恐怖心を持っていてはダメです。カッコつけちゃダメなのです。
(とりあえず今日は黙って聞いとくか・・・)
そんなことを考えながら黙っていれば、みんなにバカだと思われることはありませんが、管理職としての役割とみんなからの期待を放棄したことになるので、信用は失うでしょう。
「うちの上司はバカだけど頼りになる」って思われるのもつらいですが・・・
とにかく意思決定するのが管理職の仕事
意地でもアウトプットを出すのが管理職としての役割です。意地でも、です。
それもリーダーシップという能力のひとつです。
議論が平行線になっていたとしても、みんなの同意が得られない状態にあったとしても、意思決定に必要な情報が揃い、「機が熟した」と判断できるタイミングであれば、強権発動すればよいのです。
その力を与えられているのが管理職なのです。
意思決定に必要な情報が揃ってないのであれば、「明日までに○○の情報を入手する」という意思決定をすればいいのです。
ただ黙っている管理職など意味のない存在です。
「全員賛成」など必要ではない
議論が紛糾して結論が出ない会議。これ以上話し合っても結論は出そうにありません。
参加していた管理職は決断します。
よし!こうしよう!
みんなホッとため息をつくでしょう。
さすが管理職!見事に意思決定を行い結論を出しました。会議はハッピーエンドです。
でもちょっと待ってください。
ここで管理職が下した意思決定は果たして正しいのでしょうか?
「地位の力」で強権発動し、無理やり結論を出したわけです。
正しいかどうかはわかりませんし、内心反対している人も少なからずいるはずです。
つまり、難しい会議で無理やり結論を出した場合、全員賛成なんてことはあり得ないのです。
会議のアウトプットとして最も大切なことは、全員が合意することではありません。そんなものは必要ないのです。
必要なのは「みんなで決めたことはちゃんと支持しようね」という参加者の支持なのです。
組織というものは、すべての事柄について全員の同意を得て動いているわけではありません。
全員の「同意」はでなく、全員の「支持」で動いているのです。
「私は反対ですが、やるなら私もお手伝いしましょう」という「支持」です。
言われたら当たり前に聞こえるかもしれませんが、実際はどうでしょう?
無意識に全員の賛同を得ようとしてしまい、ムダに議論に時間をかけてしまうことはありませんか?
ひとりでも難しそうな顔をしてる人がいたら、気になったりしませんか?
管理職が意思決定をする場合は、そんな反対派の機嫌を取る必要などないのです。
とにかく決断する。間違っていた場合は自ら責任を取る。
そのリスクを背負っているからこそ、みんなよりたくさん給料をもらっているのです。
平行線になった議論で管理職が取るべき行動は2つ。
反対派の人たちから「同意」ではなく「支持」を取り付ける
これだけなのです。
意思決定の場で管理職に求められていることは「知識」ではなく「覚悟」なのです。