多くの企業では昇格(等級が上がる)や昇進(役職が上がる)の際、面接や小論文などの試験があります。
昇格・昇進試験の審査員が「どんな視点で審査をしているか」について、実際に大企業で審査員をしている私から本音でお話したいと思います。
昇格・昇進試験を受けようとしている社員に私が指導するときに、いつも言っていることそのものでガチのアドバイスです。
就活生や転職を検討されている方にも参考にしていただければ幸いです。
私の会社の昇格・昇進試験
私の会社では、一般社員の昇格や管理職への昇進は、面接と小論文による審査で決定しています。
一般社員の昇格試験の審査は各部門内で実施していて、受験者より上位職の社員が審査をします。(平社員の審査は係長が、係長の審査は課長がする等)
管理職への昇進試験は、各部門の上級管理職(役員の少し手前くらいの人)と人事部が一緒に審査します。
人事部の役割は、各部門の審査基準にバラツキが出ないように見張っているくらいで、実際に合否を判断するのは各部門の上級管理職となります。
人事部は各部門のビジネスを深くは理解していないので、そもそもジャッジする能力はありません。(人事部には申し訳ないけどマジで)
最終的な承認は担当役員が行いますが、上級管理職の審査結果がひっくり返ることはまずありません。
そして私は、管理職の昇進・昇格試験の審査員を10年以上やっています。
「慣れてる人に任せよう」と言われて毎年やらされてます。
おまけに、審査員経験が豊富なことを買われて「うちの部下が受験するんで指導してやってくれ」と他部門から家庭教師を頼まれたりするんです。
もちろん頼まれたらすべて引き受けています。「ギブアンドギブの精神」です。
「ギブ&ギブ」そんな都合のよい話ってあるのでしょうか?ただのキレイごとではないでしょうか? 「ギブ&テイク」で成り立っているビジネスにおいても「ギブ&ギブ」は誰でも簡単に実践することができます。 それはあなたの人生を、そしてビジネスを”必ず”成功に導くことでしょう。
私が指導した受験者は合格率が高く、長年そのようなことを引き受けていたら、結果として社内のあちこちに私に恩義を感じている優秀な社員がいるという状態になりました。
だから受験シーズンになると、受験者の審査や指導に時間を取られて大変なのですが、見返りを期待せずに頑張っていたら、仕事をする上で非常においしい状態になったわけです笑
私は昔から「まわりの人がよく出世する」という不思議な運を持っていますので、そちらの特殊能力も効いているようにも感じています。
今この記事を読んでいるあなたにも「幸運」が訪れるかもしれません笑
小論文を書くときの注意点
昇進・昇格試験における小論文の位置づけは、私は「面接で話すことのネタ」程度にしか考えていません。
審査員(面接官)は、事前に小論文をチェックして面接で何を聞いてみようかと考えます。
小論文から論理的思考だとかいろいろと受験者の能力を評価しようとする考え方もありますが、私には能力はあまり見えてきません。
そもそも誰が書いた小論文かもわからないので。上司が書いたものかもしれないし。
小論文を通して私に見えてくるのは、受験者の能力よりも気配りや他人を思いやるといった人間性やキャラですかね。
言い換えれば、小論文の出来が悪くても面接でカバーして合格することもありますし、その逆もあります。
とはいえ、出たとこ勝負の面接と違って、小論文はじっくりと事前準備ができるので手を抜いてはいけません。
当たり前だけど「自分で書く」こと
よくあるのが、「結局小論文を書いたのは受験者の上司」というケースです。
提出納期が迫っているのに受験者本人が煮詰まってしまって筆が進まなくなった場合、上司としては「俺が書くしかない!」となります。
はっきり言います。
この時点で、合格はかなり困難です。
私のような歴戦の面接官であれば、誰が書いた論文なのかは面接で少し会話すれば簡単にわかります。
間際にドタバタと上司が小論文を書くような状態になった時点でアウトで、これは上司の指導がヘタクソなのと、受験者にはまだ受験は早かったということでしょう。
そうならないように、小論文は早め早めに作成するようにしてください。
試験を辞退してもいいくらいですが、それが無理なのであれば、面接までに上司が書いた小論文をなんとか自分事化するしかありません。
審査員としては「小論文を上司が書いたから」という理由だけで不合格にはしません。
文章を書くのが苦手でも優秀な人間はいますから、面接でカバーできれば合格の可能性はあります。
ただ、計画的に仕事をする能力、論理的に思考する能力といったものは、当然0点とジャッジしますし、面接で会話が噛み合わない可能性も高くなりますので、かなり不利な状態での勝負となることは間違いありません。
見栄えは美しく、内容は爽やかに
受験者にとってみれば、試験は自分の一世一代の大きな挑戦なので、当然小論文にも気合が入ります。
一方、審査員は何人もの受験者を審査しますので、大量の小論文を頑張って読んで理解しないといけません。
こっちも人間なので、読む気力が失せてくることもあります。
たとえばこんなケース。
文字が小さく字数が多すぎる
暑苦しい表現が多い
まず誤字脱字ですが、これは問答無用でアウト。
その場で書かせるタイプの小論文なら仕方ありませんが、事前に提出する小論文に誤字脱字があるなんて、審査員に対して失礼です。
そもそも真剣さが足りていない、と私は判断します。
私は誤字脱字には手厳しいめんどくさいおじさんです笑
誤字脱字を防ぎたければ、あれこれ考えずに、声に出して読み返せば十分でです。では部下の誤字脱字に対して、上司はどのように対応すべきなのでしょう?どんなにウザがられても、徹底的に突くべきです。大切な部下のために上司は悪役に徹しましょう。
小論文は用紙サイズや文字数が指定されていると思いますが、熱くなりすぎてそれを無視して、小さくて大量の文字で書いてくる受験者もいます。
「熱い思い、やりたいことがたくさんあるんです!」
なんて思っているのかもしれませんが、正直勘弁してもらいたい。
それと人ぞれぞれ好みはあるかもしれませんが、文字のフォントなんかも滅多に見かけない特殊なフォントを使ってくる受験者もいます。
これもまあまあ疲れます。読む前に、見た瞬間に気分が萎えます。
そういうところで個性を出そうとしないでください。
見た瞬間に美しく爽やかな印象の小論文は、読む方の気分も上がるものです。
暑苦しい表現を多用する小論文を見かけることもあります。
「私は○○を実行します」
とシンプルに書けばいいものを、
「責任感が強い私はわが社の成長にとって重要である○○を実現するために積極的に行動します」
とかどうでもいい装飾を入れる人もいます。
これは「文字数のムダ」であり、審査員を疲れさせます。
熱い話は面接でいくらでも聞きますので、文字にはしないでください。
限られた文字数をもっと有効利用するようにしましょう。
「課題」は深く「アクション」は広く強く
小論文の大まかな流れは、
となります。
「現状」は、今の会社や部門の置かれている環境や状態。
「課題」は、その「現状」を受けて困っていることや今後のリスク。
「アクション」は、「課題」を解決するための取り組み。
文字数の配分はこのくらいが適切でしょう。
次は中身です。
「現状」のところは、まあ誰が書いても似たような内容ですし、適当でいいです。
現状認識については、審査員に対しては「釈迦に説法」なので、あまりグダグダと語る必要はありません。
一般社員の試験であれば、現状2:課題3くらいでもいいでしょう。
管理職試験の受験者であれば、現状が認識できてて当たり前ですが、若手や一般社員であれば現状認識をどのくらいできているかも評価ポイントとなります。
課題については「深さ」が重要です。
小論文で「大きな差」が出てくるのが、実はこの課題の部分なのです。
この後に続く、課題に対する「アクション」については、実はそこまで革新的なアクションっていうのはあんまりなくて、誰が書いても似たようなものになりがちです。
でも課題をどう捉えるか、どこまで深く考えているかについては、受験者によって大きな差がでてきます。
よくあるダメな小論文は、課題とアクションをひっくり返しただけのものです。
たとえば、
課題:営業と開発のコミュニケーションが悪い
アクション:営業と開発の定例会議を開催する
アクションとして定例会議を開催するのは別にいいのですが、じゃあ逆に、定例会議を開催すればコミュニケーションがよくなるのか?と言えば、確信は持てません。
定例会議を開催しても誰も来てくれないかもしれませんし、来てくれたとしてもただ黙って座っているだけでなんの解決にもならないかもしれません。
結局、課題の深堀りが足りていないから、こんなマッチポンプで薄っぺらい内容になってしまうのです。
なぜ営業と開発のコミュニケーションが悪いのか、をもっと深堀りして表現しないと、定例会議を開催することの有効性が見えてきません。
アクションについては「広く強く」書くことが重要です。
先程も述べたように、会社の中でできることって限られていて、現実的に小論文に書けることは、同じ部門であればおおよそ誰も似たような内容となります。
あまりにも革新的なことを書くとウソっぽくなり実現性を疑われますので。
ではどこで差をつけるかというと、「広さ」と「強さ」になります。
「広さ」というのは、手段の網羅性ということです。攻め方の数です。
ひとつの課題に対してもできることはたくさんありますので、それをどれだけ語れるかです。
また、アクションを大量に羅列しただけでも薄っぺらすぎます。To Do Listみたいな小論文ではいただけません。
「強さ」すなわち実現性と受験者の実行力が大切になってきます。
ダメな小論文でよく見かける言葉。
○○を推進します
○○を企画します
○○を運営します
いずれも具体性がなく、意味がわかりません。
「これ、ほんとにあなたにできるの?やりきれるの?」
という審査員の疑問に答えられるように、あなたが汗をかいて課題に取り組む姿が目に浮かぶように、アクションについてはより具体的に書くようにしましょう。
面接を受けるときの注意点
小論文を提出したら、次は面接となります。
私も新入社員の入社面接から管理職の昇進試験まで、数多くの面接官をやってきましたが、やはり緊張される方はいます。
これは当然だと思いますので、緊張をほぐしてあげるのは面接官の役割だと思います。(圧迫面接というやり方も世の中にはありますが)
頭が真っ白になって質問に答えられなくなる人もいましたが、私自身はそれを理由に落としたことはありません。
そんなに気が小さくて管理職になれるのか、という意味では減点になりますが、致命的な減点にはなりません。
面接官との会話がズレないようにすること
面接でうまくいかない典型は、面接官との会話がうまく噛み合わなくなるケースです。
これには2つのパターンがあります。
面接官は上級管理職とはいえ、中にはポンコツな人もいて笑、意味のない質問やわけのわからない質問をしてくる人もいます。
こういったケースでドツボにハマっていくのは、受験者が訳もわからずに安易に受け答えしてしまい、お互いの話がどんどんズレいってしまうことです。
アホな質問した面接官が悪いとはいえ、面接官です。逆らえません。
話が大きくズレてきたら面接官は「もういいや」と思って、手元の評価シートに「X」をつけて、話題を変えます。
そうなる前に、質問の意図を聞き返しておいた方が安全です。
もうひとつが、受験者が自分の書いた小論文の内容を理解していない、というケース。
面接官は小論文を見て、そこに書いてることから質問をしているのですが、受験者本人が小論文を理解していないと、書いてあることと違うことを話し出すのです。
そうなると面接官は「???」となります。
たとえ自分で書いた小論文であっても、一字一句までは覚えてなかったり、どこにどう書いてあったのか緊張のあまり忘れてしまうこともあります。
私がオススメする方法は「小論文を完全丸暗記」することです。
実際私が管理職の試験を受けたときには、自分の小論文を丸暗記しました。
文章毎に単語カードに記入して、それを頑張って朗読しながら暗記しました。(当時はスマホがなかったので笑)
↓こういうやつですね。
一見遠回りでムダなことに思えますが、丸暗記しておけば、面接官が何を聞いてきても即座に答えられるようになります。
言葉ひとつ聞いただけで「ああ、あそこのことを聞いてるのね」とすぐにわかります。
面接官の質問を遮って答えられるほどの自信と余裕を持って面接に対応できます。(遮っちゃダメですが)
薄っぺらな言葉を使った自己PRはしないこと
面接のときには、小論文以外に「自己紹介シート」も提出するケースがあります。
就活学生であればエントリーシートってやつですね。
そこに自己PRみたいなことを書くと思うのですが、以下のような言葉を使うと面接官に突っ込まれて自爆することがあります。
コミュニケーション力
概念構成力
企画力
人材育成力
面接官はその言葉の定義を問い詰めます。
「そもそも○○力ってどういう意味なの?」
過去に何度もそういう質問をしてきましたが、まともに答えられる受験者はほとんどいませんでした。
そもそも合格する優秀な受験者はこのような言葉は使いません。
学生が使いそうな薄っぺらい表現はやめておいた方が無難です。
また管理職への昇進試験の場合は、受験者自身の能力よりも、どれだけ人を使って成果を出せそうかという点で審査します。
ここで自分自身の能力をアピールしてくる人もいます。
「私は海外勤務経験があるので異文化理解の能力があります!」
「私は商品企画をやってきたので企画をすることは得意です!」
そういうのはあんまりいらないです。
すでに能力と経験が高く評価されているから、こうして受験資格を得ているのです。
審査員はこれまで頑張った「ご褒美」に昇進させようとしているわけではありません。
これからどんだけやってくれるかの「ポテンシャル」をジャッジしようとしているのです。
「人を使って成果を出す」ことについては、こんな根性論はあまり言わない方がいいでしょう。
「チームを成功に導くためには、情熱をもって部下と接することが大切だと思います」
根性よりも「考え方」や「テクニック」の方が面接官の心には刺さります。
「考え方」や「テクニック」は、当サイトを見てもらえればヒントが得られると思いますが、合わせて「自分自身の具体的成功事例」なんかも説明できれば完璧です。
必ず面接官の心に刺さります。
昇格・昇進試験に落ちた人
うちの場合は、一度落ちても何度か再受験することは可能です。
でも中には一度落ちたことで自信を無くし、再受験を辞退する人もいます。
特に管理職への昇進試験は、受かると受からないとではかなり会社員人生が変わってきますので、落ちた人のヘコみようはかなりものです。
不合格になった社員はこんな言葉をもらします。
「これまで会社のために頑張ってきたのに、それを否定された気分だ」
「毎期の業績評価は高いのになんで不合格になるのか?」
「自分が他の合格者と比べて劣っているとは思えない」
気持ちはわかります。
合否判断が出たら、審査員は合否判断の根拠について受験者の上司にしっかりと説明をし、上司はそれを受験者にフィードバックします。
私も自分の部下が不合格になったこともありますし、自分が審査員として不合格にした社員もいます。
受験者に受け入れられるかどうかはさておき、それなりに理由はあります。
何時間も審査メンバーや人事部で協議をして、悩みに悩んだ上で結論を出しています。
フィーリングや好き嫌いで適当に決めているわけではありません。
まず「これまで頑張ってきたのに」「いい評価をもらっているのに」というのは受験者の勘違いです。
そこを認めているからこそ、管理職への受験資格が与えられたのです。
もう一度言います。
審査員はこれまで頑張った「ご褒美」に昇進させようとしているわけではありません。
受験資格すら与えられない社員もうちにはたくさんいます。
(一般社員の昇格試験、つまり等級アップについては、うちの会社の場合ほぼ年功序列で全員公平に試験を受けれられます)
「他の合格者よりも自分が劣っているとは思えない」のも、あくまで本人の認識であって、小論文の出来や面接での受け答えによって、それなりに「差」が浮き出ているのです。
もちろんポンコツ審査員もいないことはありませんが、複数の「大人たち」で協議をしていますので、ポンコツ審査員によるポンコツ判定ということはありません。
不合格になってモチベーションが下がるのは人として当然のことですし、理論理屈で他人がどうこうできるものではありません。
ここは本人に乗り切ってもらうしかありません。
そこでそのまま腐ってしまうのも本人次第。アドバイスはありません。
転職を考えるのも本人の自由。私は引き止めません。
ただ、一度不合格となり「自分の足らずを知った」という強みは、誰しもが得られるものではありません。
審査員としては、うまいこと一発合格した社員よりも、一度落ちてリベンジで合格した社員の方が、むしろ将来に期待できるのではないか、とすら思いますよ。
昇格・昇進試験に関する会社の悩み
あなたの会社の昇格・昇進試験では「合格枠」という考え方はありますか?
例えば「今年の管理職の合格者は最大5人までね」とかいう枠です。
私はこの「合格枠」という考え方に異を唱えて人事部と話し合いをしています。
昇格・昇進試験は、優秀な社員を適切なポジションに置くことによって組織を強くすることが目的です。
ところがこの「合格枠」というものがあると、「枠があるなら使い切ろう」と考えてしまい、受験者全員がイマイチだった場合でも上位5名が合格してしまいます。
逆に、受験者全員が優秀だった場合は、「この中から誰を落とすか」といったおかしな話になってきます。
毎年の受験者のレベルによって、昇格・昇進する人の力量にバラツキが生まれます。
受験者にしてみれば「運、不運」に左右され、力量が適切にポジションや収入に反映されないという不公平が生まれます。
ただ、私の言ってることを実行すれば、ある年は大量に合格者が出るときもあれば、合格者がひとりも出ないことも起こります。
これはこれで会社としては悩ましい。
これは社内の昇格・昇進試験に関わらず、新卒採用でも同じです。
普段から計画的に人材育成をしていくしかないのですが、人材の成長は機械的に思ったようにはいきません。
実は私に妙案があるのですが、会社全体に関わる大改革になりそうなので、思うように話は進んでいません。
いつかこのサイトで解説できればいいなと思っています。
昨年この記事を拝見後に課長昇格面接にのぞみ、おかげさまで無事合格することができました。
特にこの記事の
”審査員はこれまで頑張った「ご褒美」に昇進させようとしているわけではありません”
の部分は、なんとしても合格したくて、視野が狭くなっていた当時の私には大変深く刺さりました。
言われてみれば当たり前過ぎるのですが、それ故に昇格試験の受験者への金言だと改めて感じています。
Kage様、
コメントありがとうございます(^^)
昇格試験合格おめでとうございます!当時は心身ともに大変だったと思います。お疲れ様でした。
欧米企業では以前よりポテンシャル評価を重視した面接が実践されていますが、日本はまだ業務実績にウェイトを置いた評価をされている企業が多いように感じています。(ポテンシャル評価すべきと頭ではわかっていながら、誰が見てもわかりやすい業務実績に目が行きがち・・・)
ポテンシャル評価も簡単ではないのですが、私個人としては「何にでも好奇心の強い人」はポテンシャルが高いのではないかと考えています。
管理職としてのKage様のご活躍と更なるキャリアアップ、また貴社の益々のご発展を願っております。
青葉